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ap bank fes '09 特集

  • 【eco-reso talk 7】その4 食べ物は、私たちの体を作るものeco-reso talk
2009/8/31
【eco-reso talk 7】その3 未来を農業に託す

eco-reso talk「食と農」。第3弾は、ap bank fesのホームページで受け付けた質問に、ゲストの皆さんがお答えくださいました。現代社会のあらゆる問題を解決するためのヒントが、どうやら「農業」に隠されているようです。


司会:ケン・マスイ
ゲスト:澁谷 剛(株式会社ろのわ)
東野翠れん(写真家)
枝廣淳子(環境ジャーナリスト)
小林武史


◆自然のペースを回復するために農業、というのもいい


ケン 次の質問です。「将来、食糧が足りなくなってしまうのではないでしょうか? 地産地消がよしとされていますが、アジアなどで地産ができない国が出てくるんじゃないでしょうか?」と。先ほど、澁谷さんのお話で、中国を旅されて「これはヤバイ」と感じたということですけども。


澁谷 実際に中国の経済発展を見て、テレビや車を買ってくれるのであれば日本にとってもありがたいんですけども、その前に食糧が大量に必要になってくるだろうなとは強く感じました。2003年だったと思いますけども、中国が穀物輸入国に転じたんですね。今、中国にはどんどん富が集まってきて、ますます買える力を持ってきています。インドもまた、そういうような形になってくることが予想されます。中国だとかインドだとか人口の多い国が世界中から食糧を集めはじめると、日本が食糧を今のように自由に海外から買うことができなくなってくるでしょう。そういう状況にありますが、日本の農業を少しでも支えられればいいなと思ってます。


ケン 小林さんは今年ap bankのお米プロジェクトで石垣島に行かれて、ひとめぼれという米を収穫しましたけれども、自給率をどんどん上げなきゃやっていけないような今の世界の食糧の状況はどういうふうに感じていますか?


ap bankが稲刈りをした、石垣島の田んぼの風景。ap bankが稲刈りをした、石垣島の田んぼの風景。小林 僕は自給率よりも、農業のようなところに男の人が中心となって向かっていった方がいいんじゃないかなと思ったんですよね。直接食いぶちを稼ぐような男がいっぱい現れるとカッコいいし、女の人も惚れ直したりするんじゃないかな。今の日本の男はそういう部分を見失ってるけど、もともと生きる糧を何とかするって役割を担ってるとも思うんですよ。今は草食だなんだって言われてるけど、そういう部分を取り戻したらもっとカッコいい男が出て来そうな気もするし。


まして今はリストラだとか大変な時代で、未来に対して持てる希望が小さくなって、鬱になる人も多いわけでしょう。僕の周りにもそういう実例はいますし、鬱になっていったん社会からはみ出した人がもとに戻れない社会はよくないと思うんです。そういう人の回復の場として農業があってもいいんじゃないかとも思うんだよね。僕らは命を授かって、命の交換をやりながら生きていってるわけじゃない。そういうことを農業を通じて感じるのも大事なことだと思うし、それに最低限食べられたら生きていける。そういうことを考えながら、僕は農業に向かってみたんです。


ある企画で商社の人にインタビューしたことがあるんだけど、商社の人たちはお金を出して世界からかなり食糧をかき集めてるんですね。そのインタビューでは商社の人が「ぶんどって来てる」と言ってました。もう日本人のために力技でぶんどって来てるような現状みたいなのね。それはどうしてかって言ったら、「日本人が望んでるからだ」と言うんです。でも、その人も「お金で買えるうちはまだいいんだ」って言うんですよね。


お金を出しても買えなくなる危険性は十分あると商社の人も感じてるそうです。僕には経済がどういうふうになっていくのかは分からないけれども、もう少しそういう経済原理に頼るのではないところにシフトしていく――。それも経済原理なのかもしれないですけどね。そんな思いがあります。


枝廣 農業や植物の良さのひとつは自然のペースで育つということです。一生懸命「がんばれよ!」と言ったって、植物は自然のペースで育っていくしかないですよね。まさに私の友達にもこの非人間的な社会のペースに疲れてしまって、大変厳しい状況になった人がいたんです。彼は都会を離れて村の人に教えてもらいながら農業をはじめて、人間性を取り戻したんですね。今は元気に農業をバリバリやって、ときどき野菜を送ってくれます。そういった意味で、私たちが日常引き離されちゃってる自然のペースとか、循環とか、それにもう一回戻してくれるっていう役割もすごく大きいと思うんです。


これから食糧が不足する時代がくるんじゃないかという問いに対しては、どういうレベルで食糧を供給しようとしているかを考えるべきだと思います。たとえば、日本の飽食のために他の国から食糧をぶんどってくるような、そういったやり方で、高いレベルのものをみんなに供給しようと思ったら全然足りないです。


ベトナムで日本のために玉ねぎを作っているそうですが、その農家の人はダンボールに穴が開いたものを渡されるそうです。なにかというと、それにちょうど入る玉ねぎだけを日本は買うっていうんです。シンデレラのクツみたいでしょ? 大きかったり小さかったりした玉ねぎは、そこに野積みにされて腐っちゃうそうです。そういうレベルのことをやっていたら絶対に足りない。


もうひとつ問題なのが、分配の問題なんですね。実は今でも世界には十分な食糧があって、世界中の人口を食べさせることができるんです。ただ、それが偏ってしまっている。なので、その偏りをどう減らしてくかも考えていかないと、問題は食糧不足だけではないと思うんですね。



◆農家の人いわく、植物は嘘をつかない


ケン 世界の食糧問題のような難しい話もありますけど、農業ってもっとシンプルなものでもありますよね。たとえば、子供のときに土で遊ぶと引きこもりにならないって言うようなことですが。自分の親父はもう死んでるんですけど、死ぬ前に仕事をすっぱり辞めて、長野にリンゴを作りに行ったんですね。そこから人柄がちょっと変わったんです。親父はジャーナリストでガンガン回ってた人なんですけど、疲れた自分の最後の年月をリンゴに託したところがあったのかな。


さっきの小林さんの話ですけど、石垣島に行ってぬるい水の中に足を突っ込んでみて自分が地球の一部だと感じるみたいな、そういう感性に訴えるものっていうのもあるわけですか。


石垣島で、コンバインによる稲刈りを体験。石垣島で、コンバインによる稲刈りを体験。小林 一緒に石垣島へ稲刈りに行った大塚 愛さんとか、Salyuとは「音楽を作るのに似てる」って話しましたね。合理性だけじゃ作れないところが似てるんですよ。たとえば苗を植えて、それが育つっていうのも、全部が全部、自分の思いどおりにはいかない。人の手を借りて育っていくこともあるだろうし、自然のタイミングだったり、いろんな運だったり、そういうことですごく変化するじゃないですか。でも、そこで多少悪いことがあっても何とか恵みを引っぱり出してやっていくというのは、音楽も農業も全く一緒だと思う。


たぶん、農業もいいことばかりは続かないですよね。よかれと思ったことが悪く転じちゃったりもするし。詳しいことは何とも言えないところもありますけど、農薬の問題でも、昔はすごいものが見つかった、これでもう虫の心配はいらないんだって「やったー!」って思っていたと思うんだよね。


ところが、そういうふうにはなかなかならない。ポジティブなこととネガティブなことは表と裏でつながりながら動いているから、それも引き受けてやっていけばいいんだろうと思いますね。


ap bank fes'09でも、育てたミニトマトを展示しました。ap bank fes'09でも、育てたミニトマトを展示しました。ケン 今回ミニトマトプロジェクトというのを、スタッフ含めて、小林さんも僕もやらせてもらったんですが、僕は最初の芽は出たんですけど、ちょっと旅で留守にすると、帰ってきたらふにゃってなってて失敗しちゃったんですよ。ほんと作るのって難しいですよね。


澁谷 そうですね。ベテランの農家さんなんかも「農家は毎年一年生だ」と言います。毎年天候が変わるし、いつまでもベテランにはなれない。また、ある農家さんは「植物は嘘をつかない」と言っていました。さぼったら自分に返ってくるということで。


ケン 植物は嘘をつかない。インディアンじゃなくて(笑)?


小林 昔から農業の人たちって知恵をよく知っていたよね。僕が「小さな思い」ってよく言っているのは、やっぱり男はでっかいものを作りたがるし、僕もそういうところがあるから、戒めもあるんです。でっかいものを作ることのよさもあるんだよ。だけど、間違ってどんどん肥大していっちゃうと、いろんなものをなぎ倒していったり、勘違いしたりがあるんですよね。環境も生態系とか多様性が大事だとよく言われますけれど、そういう小さなものだったり、知恵が獲得できる社会というのは、今の理想かもしれない。


だから僕、eco-reso webを始めたんですけど、行くと知恵が身につくみたいなサイトになるといいのかなと思います。


(第4回目につづきます!)

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