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「沿志奏逢 3」Release Special 原曲レビュー

data : 2010.07.04category : 「沿志奏逢 3」リリース記念 Special FEATURE
ジャンルやキャリアなど、実に多彩なアーティスト陣の楽曲をカバー/リ・アレンジした「沿志奏逢 3」。リリース記念 Special FEATUREの締めくくりとなる今回は、収録曲の原曲レビューを一挙に掲載。楽曲の背景に流れるストーリーや、歌詞とメロディに込められた想いを読み解きます。
原曲を聴いたことがない、原曲を歌っているアーティストを知らない、という方はぜひチェックしてみてください。Bank Bandから、未だ知らぬアーティストへ――。『沿志奏逢 3』が触媒となり、新たな音楽との出会いの扉を開きます。


01.「ハートビート」GOING UNDER GROUND

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 実力を携えたロックバンドでありつつ、せつないラブソングには定評のある、GOING UNDER GROUND。「生き急ぐぼくらの」という自覚的なフレーズが繰り返し登場する「ハートビート」は、2003年10月に発売されたアルバムタイトルチューン。携帯電話のCM曲にもなり、2004年1月にはシングルとしてリリースされた。
 作詞は松本素生/河野丈洋、作曲は河野丈洋によるもの。ドラマーであり、優れたソングライターでもある河野の手腕が冴えるドラマチックな構成に、松本のボーカルが素直に反応していく展開が心地いい。追い風のごとく生き急ぐリズムに、やさしいフレーズが呼応する。「向き合った未来のハーモニー/それだけはポケットにあったんだ」――。





02.「ステップ!」RCサクセション

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 1979年7月に発売された、それまで低迷していたRCサクセションの再デビュー曲とも言われるシングル曲。ダイナミックなホーンやストリングスを多用した、彼らにはめずらしい16ピートの華やかなダンスナンバーで、いつものシニカルさを排除した、忌野清志郎のビビッドなボーカルがリズムを刻み続ける。が、一方では、レコーディングにおいてバンドのメンバーではなくスタジオミュージシャンが起用されるなど、当時の制作スタッフとの確執を物語る、いわくつきの楽曲でもある。しかし、のちに発表されたアルバム『RHAPSODY NAKED』で聴くことのできるライブ音源は圧巻。音楽は時代や人によって変化し、育っていくものだという事実を彼らの演奏が知らしめている。常に生々しい楽曲とエピソードに彩られてきたRCサクセションの生きざまを象徴するタイトル。靴が脱げてもダンスは止まらない、と歌う清志郎の切なる姿勢は、今日も力強く聴こえてくる。





03.「若者のすべて」フジファブリック

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 個性的な歌い方と、独特な切口の楽曲で定評のある、若き才能に溢れたフジファブリックの代表作品のひとつ。
 トリックが仕掛けられた扉を次々に開けていくような、メロディの展開が楽しめる。乾いた感触ながら、同名タイトルの映画を彷彿とさせる、物悲しさもその根底には流れている。「ないかな ないよな なんてね 思ってた」というサビが、作詞作曲とボーカルを担当する志村正彦の、日常とファンタジーが同居するポップセンスを象徴している。耳慣れた言葉が世界の幕を引くような力を持っていることにも気づかされる。  2007年11月発売、フジファブリックの10枚目のシングル。アルバム『TEENAGER』に収録。バンドは2000年に結成され、紆余曲折しながらもオリジナリティを追求、見事に実らせていったが、2009年12月にボーカルの志村正彦が急逝。残ったメンバーは音楽活動を続けると発表した。





04.「慕情」サザンオールスターズ

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 ap bank fes'09で演奏されたこの曲は、92年に発表されたサザンオールスターズの『世に万葉の花が咲くなり』の中で発表された名バラードである。アバンギャルドな作風も含まれるアルバムだったが、この作品は発表直後から長く歌い継がれてきたスタンダード曲のような風合いを持っていた。曲を書いた当時、桑田佳祐は36歳。でも今の彼にこそ似合うのがこの歌かもしれない。有名映画のタイトルである"慕情"という言葉に惜別の想いを託し、新鮮に響かせている。
 静かに寄せては返す波間の景色のようなメロディは完成度が非常に高い。それを櫻井が自分流に「解釈する」というより、メロディに「身を預ける」がごとき境地で歌っているのが印象的。そして忘れてならないのが当時サザンのレコーディングに小林武史が重要な役割を果たしていたこと。さらにエンジニアの今井邦彦も元曲およびBank Bandの両方に参加している 。





05.「明日のために靴を磨こう」HEAT WAVE

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 ヒートウェイヴのアルバム『陽はまた昇る』のリード・シングルとして92年に発表された作品である。Bank Bandが彼らの楽曲を取り上げるのは『沿志奏逢』収録の「トーキョーシティー・ヒエラルキー」に続き2作品目となる。"過去を越え明日へ向かう"といったテーマの楽曲はたくさんあるが、この歌ほど文学的かつ映像的な秀作も珍しく、バンドのボーカルでソング・ライターの山口洋の力量が伺える。オリジナルは男気溢れるギター・バンド・サウンドが魅力だったが、ここでは一変、ブラス・ストリングス・パーカッションを含むBank Bandの編成を充分に活かした仕上がりになった。歌に出てくる"虹" "十二の絵具"という言葉に触発されたからではないだろうが、実にカラフルな音である。ap bank fes'09で演奏された時からつま恋の木々や光とレゾナンスしていたこの作品が、理想的な形で音源化されたことを喜びたい。





06.「緑の街」小田和正

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 97年に公開された小田和正の第2回監督作品『緑の街』の同名主題歌で、この年、シングルとしてもリリースされた。心の囁きのような歌い出しからダイナミックに展開していく作風は、映画音楽にも精通する小田の作曲能力と、今更説明の必要がない歌唱表現力があって実現したものである。ちなみにこの映画、売れっ子ミュージシャンである主人公が映画制作を思い立ち、周囲の反対をよそにのめり込んでいくという、自伝的内容だったことも話題となった。歌詞も映画のストーリーに準じたところがあり、主人公がその想いを"あの日の君"だけではなく"今の君"にも届けようとするサビのフレーズが胸を打つ。
 Bank Bandはこの曲をap bank fes'08で披露し、その時フェスに参加していた小田は直にその演奏に触れ、高く評価したという。ピアノとベースのリリカルなイントロといい、櫻井のボーカルのアクセントのつけ方といい、見事、この歌を自分達のものにしている。





07.「月夜のハイウェイドライブ」仲井戸麗市

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 仲井戸麗市が85年にリリースした最初のソロ・アルバム『THE仲井戸麗市BOOK』に収録されていた1曲。RCサクセションではボーカル忌野清志郎のよき相棒である彼が、個性を全面に出し、時に己のトラウマと対面するかのように絞り出した本作は、発表当時、日本の音楽シーンに心地よい衝撃を与えたものだった。ただ、パーソナルだからこそ意味のある音楽でもあり、本人以外が演奏し、そこに確固たる意味をもたらすのは困難に思えたが、今回、Bank Bandの果敢な挑戦が果たされた。
 この"ドライブ"の道先案内は小林武史のピアノである。そして他のすべての楽器が対等に反応し合い、まさに音のマジックの連続となった。押しの美学というより引きの美学に彩られた演奏であり、懐の深いメンバーだからこその出来ばえと言える。途中、"車"は微妙に加速したり減速しながら進んでいく。普段よりファルセット活用度が格段に高い櫻井のボーカルにも注目だ。





08.「Drifter」キリンジ

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 堀込高樹・泰行の兄弟によって結成されたキリンジは、メロディックな佳曲を次々に生みだし、完成度の高い創作性で注目を集める。楽曲提供も数多く、ミュージシャンズ・ミュージシャンとも言われる玄人好みのユニット、ならぬ、あくまで"バンド"にこだわる2人である。「Drifter」は2001年7月にリリースされた、美しいラブソング......に、見せかけたメッセージソング? 親しみやすいメロディと素直なボーカルで、「みんな愛の歌に背つかれて/与えるより多く奪ってしまうんだ」と、愛の歌を歌いながらも自戒する。正直な毒がピリリと効き、巧みな職人技のような音の構築やコード進行はいくつものフックをもって、幾層にもデリケートなヒダを重ねていく。あらゆる解釈が為されるだろうことを既に想定し、それを許容する懐も合わせ持った、深い楽曲である。





09.「有心論」RADWIMPS

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 独自の感性を音と言葉で饒舌に綴り、若者ばかりではなく、音楽を愛する様々な層にインパクトを与え続けるRADWIMPS。野田洋次郎のロマンチックな歌いだしで始まるこの曲は、有神論ならぬ「有心論」と題された、2006年7月にリリースされたシングルで、世間にRADWIMPSを知らしめたアルバム『RADWIMPS 4 ~おかずのごはん~』にも収録されている。
 神様よりも自分を信じるという強い志に裏打ちされつつも、せつなさだけはどうしたって拭えない、もどかしいまでに青い愛の歌。泣く、泣く、と連呼する衝動。この年齢のバンドにしか鳴らせない音とスピード感で溢れている。かと思えば、中盤に登場するラップのような早口なフレーズでは、ユーモラスな表情も垣間見せる。楽曲の端々に奔放な解釈が介在するこのスタンスは、その後の彼らの活躍を予言しているかのようだ。





10.「Reborn」Syrup16g

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 絶望の中の幸福、もしくはその真逆。いつだって裏腹な日々がSyrup16gの音楽の中では疾走し続けている。「Reborn」は、やさしげに語りかけるような、でもその言葉はどこまでも自分自身に向けているようにも受け取れる歌詞で、内省的な印象が強いながらも、しっかりしたメロディの組み立てと、心地よいギターサウンドかsyrup16gとしては珍しいポピュラリティの高い楽曲。そのバランスもまた、彼らならではの危うい魅力である。 2002 年コロムビアからリリースされたアルバム『delayed』に収録されているが 現 在は廃盤。ベストアルバム『静脈』、または『a complete unknown -syurup16g complete box by unknown project-』にて入手可能。2008 年 3月 1 日に行なわれ た日本武道館ライブを最後に、バンドは惜しまれながらも解散した。






11.「奏逢~Bank Bandのテーマ~」

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 昨年のap bank fes'09ですでに披露された作品だが、実に屈託なく若々しい作風であり、ひょっとしたらこの作品の誕生が「若い世代のアーティストとのレゾナンス」という今年のテーマへの"呼び水"となったのかもしれない。同じBank Bandのオリジナルでも「to U 」が環境のことを意識したものであるのと較べて、楽器を響かせあう喜びそのものに立ち返った内容と言える。歌の前半など、まさに譜面に縛られず音を練り上げていく彼らのスタジオ風景そのものである。
 さらにはこの歌は、櫻井曰く「リスナーと会場にいる人、そしてBank Bandが想いを共有できるもの」を目指して作られたそうだ。だとしたら後半に登場する「君」は受け手である我々のことだろうし、人懐っこい感じのメロディ、つい手拍子で参加したくなるテンポ感も制作意図通りなのだろう。この歌を聴いていると、「音楽でひとつになることって案外簡単なことかも」と思えてくる。




(レビュー 小貫信昭<04,05,06,07,11>、森田恭子<01,02,03,08,09,10>)
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