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緊急会議 飯田哲也×小林武史 (1) 「エネルギーの世代交代」

緊急会議の第三弾は小林武史×飯田哲也。かつては原子力を開発する側だった飯田さんの視点で、日本の原発問題とこれからのエネルギー政策についてを語ってもらった。3時間に及んだ対談を4回に分けて全文掲載!(対談日:2011年3月29日)

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ウォームハート&クールヘッドで、新エネルギーの時代に

エネルギー問題の選択肢をイメージできるように

飯田 お久しぶりです。

小林 本当に、お久しぶりでお会いするのがこんなときで悲しい感じもするんですけれどね。

飯田 よもやこんなことが起きようとはね。

小林 先日、田中優さんとも話していたんだけれど、日々刻々と状況が......。

飯田 そうですね、悪くなっていってますね。
小林 前談として、このサイトの意義を僕なりに言いますと。今すごくエネルギーのこと、特に原子力発電の是非について専門家の方々が色々な発言をされていますが、誰も完全な理論や理屈で言えるわけはないと思うんです。これは、物の言い方で転じることがあったとしても、人間ならば完全な存在を語るのは難しいという認識のうえで。今、福島原発のことがあって、緊張して生きざるを得ないじゃないですか。それは、原子力が僕らの手に余ってしまう何かを持っているという、得体のしれない怖さを秘めているからなので。だけど、原子力に関して、確定的なことを言っている人がなかなか存在しない。怖さも含めて、おおよそのことしか言ってくれないし。
おそらくこの日本には、エネルギーのことに関して大きく3つにわけると「原発を使わないでどうやって生きていくのよ?」つまり「原発以外に道はないんだ」という意見と、「直ちに原発はやめろ」という意見、そしてもうひとつは「こうして電気を使い生活している中で、今すぐ原子力をやめるということはできないかもしれないけれど、少しずつでも、それに取って代わるリスクの少ないエネルギーを模索して、節電も含めて検証していければ」という意見だと思うんです。この3つの中で、僕は意外にかどうかわからないけど、かなりの人が3番目の「リスクの少ないエネルギーへの移行を目指す」ことを志向すると思うんですよ。
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だけど多くの人がリスクの少ないエネルギーへの移行を模索したいと考えているはずなのに、なぜかこの国は「原子力ありきでないと、この社会は存在しないんだ」という意見に取り込もうとする感じがあるんですよね。
この間も言いましたけれど、送電線を電力会社が保有して管理しているから、その道路を走るものを電力会社がコントロールできてしまう。それについて、国民の声が反映された議論の余地がないまま、ここまで来てしまっているという感覚があるんです。でもこれからのエネルギーのあり方が僕のような市民にとっても分かりやすく、知らないことに気付くことができれば。つまり、僕は少しでも知りたいという人に伝わればという想いで、この緊急会議もやらせてもらっているんですね。僕はこの話し合いの中で自然エネルギーの一つひとつを検証していたわけじゃなくて。完全というものは恐らくないから。このサイトの中でどこまで整合性を突き詰めていくか、ということが狙いではなくて。



飯田 そうですね。

小林 一つひとつの発電などの検証というのは時間もかかるもの。到底、僕らのような素人に、こんなサイトで「試み......」なんていうのはおこがましいということは重々分かったうえで。それよりも、エネルギーの問題をできるだけ噛み砕いて、我々が選択できるようなイメージで伝えるべきだと。国民の声というのは大事じゃないですか、当たり前ですが。じゃなければ、専門家が何人か集まればすべて決められるのかという話ですよね。

飯田 これまではそうして決めてきたから間違えていたわけですしね。

小林 そうですか。僕は、原子力っていうのは専門家が集まってどうにかすれば結論がでるというものではないような気がしていて。
少し引いて考えてみた時、原発を擁護してきた人たちの考え方の中に、「リスクを含んでいても、そのパワーを使いこなしていくことが人類の進歩にとっては必要だ」という前提があれば原発は容認できる話なのかもしれないと、一旦は思ったわけです。たしかに我々人類は、猿から人間に変わっていくにつれて、どんどんパワーを使いこなしてきたんですよね。軍隊もそうです。平和のためには優しさだけではなく、パワーがあることで抑止できるのだ、というような。この考えには、男性的、父性的なところが強いような気がします。僕も男ですし、ややもすると一瞬、整合性のフォーカスが合うのですが、腑に落ちないところがあってね。よくよく、それが「何でだろう?」と考えてみたんですよ。僕の思う日常生活におけるパワーとは、例えば飛行機とか車なんですが、やっぱりリスクだらけじゃないですか。毎年人は死ぬし、飛行機が離陸するときや着陸するときに「人生これまでか」と思うことも何度かありましたし。
けれど、そのリスクというのは自分で覚悟できる範囲というか。飛行機に乗るときにも、確率を含めて自分で想定できる怖さなんですよね。でも、今回の原発事故の怖さは理解できないんですよ。僕らは家から一歩外に出たら、酔っ払ったり居眠りしていたりする人が運転する車が突っ込んでくるかもしれない。普通の社会生活の中で、常にそういう怖さには触れているけれども、怖さと背中合わせでも、それは想定できる範囲のことなんですよ。でも、原発となってしまうと、放射能のことも含めて何も分からない。僕らが進歩していくことも期待しているところはありますが、やっぱりバランスというのが生き物としてすごく大切だと思っているので。原子力を、少なくとも今使いこなそうとするのは、バランスを欠いた行為ではないかという思いがあるんですね。日本という地震が多い国で、そういうバランスを欠いた感覚が僕らのところに押し寄せていると思うんです。

エネルギーは世代交代の時期がきている

飯田 最初の3つの選択肢の話からすると、まさに「エネルギーを移行していく」という選択をするのは、私も一緒です。それに対しての僕自身のロジックは、"ウォームハート・クールヘッド"というものです。これをエネルギーに当てはめると、「エネルギーや環境の理想を胸にしつつ、進め方は徹底的に現実的にしていく」ということになります。


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(資料提供:環境エネルギー政策研究所)
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飯田 そもそも原子力発電所には建設してから大体40年という寿命があります。今後は原子力発電所が一切建たないことを前提にすると、すでに建っている原発は放っておいても老朽化するので、結果的に原子力発電所自体が一気に減っていくんですね。つまり、原子力は、一気に衰退していくんです。

小林 現存の原子力発電所を対象にしたデータということですよね。老朽化で減り始めるのは、今の時期からなんでしょうか?

飯田 ちょうど美浜発電所が2010年で運転開始から40年経っていて、それが一番古い原発のひとつです。

小林 すごくタイムリーな話ですね。
飯田 この現実論からいくと、いずれにしろ原子力の代替エネルギーを作らなくてはいけないんです。原子力推進派の人はまず、そのことが分かっていないんですね。原子力をやっている人のほとんどは、エネルギーのプロではなかったりするので。

小林 どうしてそんなことが起きてしまうんですか?

飯田 僕も、もともと原子力の仕事をやっていたんですが、その頃はエネルギーのことをまったく分かってなかったので(笑)。原子力というのは、ものすごく壮大なる技術体系で成り立っているんです。原子炉の中の中性子の核反応だけを計算している人とか、核燃料の設計をしている人とか、原子炉の材料をやっている人とか、それを全体的に組み立てる総合エンジニアリング会社の人や、定期検査をする人や......というようにタコツボの専門家の集まりなんですね。
それらは原子力のエンジニアリングの話で、あとは原子力政策の人が一番エネルギー政策に近いんですが、原子力のことしか見ていないので、エネルギー全体のことを把握している人がいない。逆に政府系の研究機関の人は、エネルギーのことは見ているけれど原子力はブラックボックスで、右肩上がりで増えるものだと思い込んでいます。原発が右肩下がりで一気に減っていくカーブは、政府系の電力中央研究所や日本エネルギー経済研究所がかつて出したことはないんですよね。「一体、原子炉の寿命をどう考えているんだろう?」と、我々も不思議に思っているんですけれど(笑)。そうやって、原子力のプロはエネルギー政策が分からないし、エネルギー政策のプロは原子力が分からない。そういうなかで「現実」が盲点になっていたんです。それに加えて、自然エネルギーが私の予想を超えて爆発的に増えてきた、という現実がある。



小林 それは世界で、ですか?

飯田 世界で、ですね。日本は全然ダメなんですが。

小林 そうなんですよね。僕らがap bankを最初に作ったときにも、飯田さんとはお話しましたよね。

飯田 そうですね。

小林 それで、ap bankでも環境問題と同じくらいに、これからは自然エネルギーというものを考えていかなくてはいけないという思いがあったんですが。これが本当に、頭打ちにあっているんですよね。

飯田 日本ではそうなんですが、世界ではこの10年間に爆発的に伸びたんです。例えば風力発電の市場は毎年30%ずつくらい拡大していて、去年は世界全体で約2億キロワットの設備容量になりました。原子力は約4億キロワットなので、今、風力はその半分まで来たんです。長くて5年、短くて3年で風力発電の発電量は原子力を追い越すというスピードで増えています。また、太陽光発電の設備容量はちょっと少ないんですが、それでも毎年60%ずつ増えています。
そうした拡大には、経済的に自然エネルギーの買取りを支えることと、送電線の接続を保証することが一番重要です。経済的に買い支える仕組みは、固定価格制度と呼ばれる制度(※自然エネルギー発電事業からの電力買い取り価格をあらかじめ法律などによって公表する仕組み)のことを言います。例えば「20年間、風力はいくらで買い取ります」、ということが保障されると企業は安心して投資ができますし、銀行もリスクが少ないので安心してお金が貸せます。それが実現できた国や地域で、次々と発電量が爆発的に増えているんです。2000年当時には世界で数か国しか導入していなかった固定価格制度が、今や83か国が導入するまでマーケットが拡大している。

小林 それは送電線とどういうふうに繋がっていくんですか?

飯田 送電線の制度に関しては、ヨーロッパで2000年に最初に導入したのが、もともとドイツとデンマークがやっていた、"優先接続(プライオリティ・アクセス)"というもので「自然エネルギーは他の電源よりも優先して送電線に繋ぎなさい」という法律です。
送電線に接続できて、それが高値で売れれば普及していくということですね。中国はそれを2006年に導入してから倍々ゲームになっていて、今や世界で一番、風力発電による電力が増えているんです。一番新しいところでは、カナダのモントリオール州は、自然エネルギーの企業だけでも1兆円以上の投資が起きています。それに、フィリピンやマレーシアなどの東南アジアでも進んでいるんです。タイは5年前に、今回追い出されたタクシン首相が固定価格制度を導入して、太陽光などを入れると農家の人が儲かる仕組みを作ったんです。だからタイの農村では、国王の写真と共にタクシン首相の写真が飾ってあって、拝まれているんですよ。インドネシアももうすぐ導入する予定です。もうひとつは、小規模分散型の製品はパソコンや携帯や液晶テレビと一緒で、普及すればするほど価格が安くなる。このように原子力が消えていく現実と、自然エネルギーの急速な普及とが、クロスしているというところに今ちょうど来ている。

どうして日本では自然エネルギーが普及しないのか?

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小林 日本で風力発電については、しばらく前から批判的な声が出ていますよね。あれがかなり足を引っ張っている感じもするんですが、どういうことを批判されているんですか? 一部では、風力発電の助成金目当ての人がいるという例があったのかなという気はしているんです。そういうことが絶対起こらない、ということはないだろうという想像はできますが、それで一蓮托生で風力がダメになっていくのなら悲しいんですけれど。あとは、地理的だったり気候だったりの条件も含めて、日本に固定価格制度が導入されない理由としてなにか問題があるのではと思ってしまうのですが。例えば、日本は風があまり吹かないとか。

飯田 基本的に私は、日本の自然エネルギー市場を四面楚歌と例えています。風力発電が典型的ですが、政策の支援があまりにも乏しい。ドイツのような固定価格制度がないだけでなく、経産省は自然エネルギーを推進するような動きをほとんどしてきませんでした。そして何より、電力会社の独占、つまり送電線ですね。あとは、我々が「ジャングルのような規制」と呼ぶ、非常に複雑な縦割りと硬直した規制。そして、今おっしゃっていた問題は「社会的合意不在」が大きいですね。



飯田 3大話といいますが、「鳥」、「景観」、「低周波」(※風車に鳥がぶつかってしまうバードストライク、景観をそこなうこと、風車によって発するといわれている低周波の問題)。

小林 低周波の問題はよく言われていますよね。

飯田 でもね、例えばデンマークでは、そういった反対運動はほとんどないんです。大きく2つの理由があります。第1の理由は、あらかじめ風力発電を作って良い場所とダメな場所というように、地域社会との合意のもとで土地利用を分けているんですね。あらかじめそういう区分けを作っておけば、例えば鳥だったら「鳥に対して影響を与えそうなところは外しておきましょう」といったことができますし、低周波だったら住宅から距離を700メートルくらい置いておけば問題ないといわれます。
それができていれば、寝耳に水のようなかたちで、ある日いきなり業者が杭を建てて建設予定地になったのを、地元の人がびっくりして反対するようなこともないんです。もうひとつ、もっと大事なのが、風力発電を誰が作って、誰が持っているのかということです。デンマークにある風車の85%は、原則として地域の人が持っているんです。その地域社会に売電の売上が戻っていくので、基本的によそ者風車ではなくてMy風車、とかOur風車という感覚なんです。

小林 分かります。ただ、その話は僕がap bankを始めたころからあるんですよ。だけど市民の風力というのがなかなか日本には根付かない。それは民主主義がどう国民の中で捉えられているのかということにも関係しているんだと思いますが、やっぱり日本には戦って勝ち得てきた民主主義という感じがまだなくて。
だからどうしても、強いものや魅力のあるものに、「引っ張っていってほしい」という気持ちが強いのかなと思うんです。同時に、一般の庶民には、あまり重要な情報は伝えられてこなかったという歴史もあるのかもしれません。

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(資料提供:環境エネルギー政策研究所)



最近は市民の利益のためにも、土地土地の人たちの中で未来を考えてやっていくという場所が、日本でも少しずつ出てきているとは思うんですが、デンマーク型という話で自然エネルギーを志向していくことが、今の日本ではなかなかできないのではないかと。今、想定を超えた原発事故が起こって、本当のことは分かりませんが、少なくともこれだけ風評被害が起きているときに、地域がもっと自立すべきだというのは、さらに難しくなるのではと思うところもあってね。例えば中国で自然エネルギーが増えているという状態に日本が近づけないのかという話にハードルを下げてもらえれば、というか。
1回、問題点を少し変えてもいいですか? つまり、今の日本では、"社会合意の不在"という問題の解決は、なかなか難しいんじゃないかと。

飯田 難しいです。
小林 じゃあ、どこからひとつずつ変えていくと、前提ができてもうちょっと国民の声が色々なところから出てきやすくなるのか。

飯田 近道はないのか、ということですよね。

小林 そうそう。それと、この図(右上の【四面楚歌の環境エネルギー市場】)でいう「縦割り・硬直規制」というのもどうにもならない気がするんですが。

飯田 ははは(笑)。そうですか。

小林 そもそも国が支援政策と言っているのは不思議な感じもするわけですよ。国民は今、エネルギーのことを不安に思っていますし、「原子力って使わなくちゃいけないの? どうなの?」ということですよ。どうしても使わなくちゃいけないのか、そうならば仕方がないけれど。
代替案があるならば、それを模索したいという人は必ずたくさんいます。それに風力発電というのは世界でこれだけ伸びている。ならば、なぜ日本では伸びないのか、何が蓋をしているのかと問いかけたときに......。大きくいうと「電力会社の独占」と「貧しい支援政策」があると思うんです。

飯田 圧倒的に、そうだと思います。

小林 そうですよね。

飯田 私は経産省を中心に官邸の中に半分足を突っ込んで、動向をつぶさに見てきたので。得も言われぬ難しさがあるんですよね。国民の期待が素直に入っていかない政治というのが、電力会社と国の中にあって。そこを変えていかなくてはならない。

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飯田哲也

環境エネルギー政策研究所(ISEP)所長。
京都大学原子核工学専攻修了。企業や電力関連研究機関で原子力研究開発に従事した経歴を持つ。その後、スウェーデンのルンド大学客員研究員などを経て、現在は持続可能なエネルギー政策の実現を目的とするISEPの代表を務めつつ、複数の環境NGOを主宰。『北欧のエネルギーデモクラシー』(新評論)、『グリーン・ニューディール―環境投資は世界経済を救えるか』(NHK出版)など、著書・共著も多数ある自然エネルギー政策の第一人者。

環境エネルギー政策研究所(ISEP)
http://www.isep.or.jp/

(情報・資料提供/環境エネルギー政策研究所、撮影・取材・文/編集部)

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