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緊急会議 瀬戸内寂聴×小林武史 「今こそ本当の祈りを」(1)

作家でもあり僧侶でもある瀬戸内寂聴さん。これまでの長い人生で様々なことを見つめてきた瀬戸内さんは、この震災を受けて何を思うのか? 政治家について、草食男子について、祈りについて......。じっくり語ってもらいました!

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考えなくてもいいから感じて欲しい

何かが起こると感じとる力

小林 本日はどうぞよろしくお願いいたします。先程は講演(※対談と同日に、徳島県立文学書道館で行われた講演)も聞かせていただきました。

瀬戸内 私、よく喋ったでしょう? あなたに自己紹介のつもりで話したの。対談の前に私のことを色々と分かってもらおうと思って。そうしないと一々面倒臭いでしょう?(笑)

小林 もしかしたらそういうこともお考えになっているのかなと思って聞いていました(笑)。ありがとうございます。講演を聞かせていただくのは初めてだったのですが、瀬戸内先生が人気がある理由がよく分かりました。明るくて、みんな魅了されますよね。
瀬戸内 馬鹿みたいなことも言っているんだけど(笑)。でも本当に物事を暗く考えないんですね。

小林 瀬戸内先生は51歳で出家されたと仰っていましたが、僕がちょうど今、51歳なんですよ。

瀬戸内 あら、そうなの! 私はね、どうして出家したのかとよく聞かれるものだから講演でも最初の方に話してしまうのだけど、どうしてかというのはとても微妙なことなのね。1つの理由ではなくて色々な微妙なことがあってのことだったんです。だから簡単に説明してしまうには、「更年期だったから」と言うのが一番なの(笑)。でもね、男にも更年期ってあるのよ。
それはあまり言われないだけでね。体がだるくなったり仕事を変わりたいと思ったりするらしいですよ。

小林 確かにあるかもしれないですね。でも僕は最近やるべき事の方がどんどん増えてきていて、じっとしているわけにはいかないというか......。

瀬戸内 でも、すごいですよ。あなたがしてらっしゃる事を色々とお伺いしたけれども、私がしたい事全部してるのね。音楽の人だけれど畑をやったり震災の支援なんかもやってるんでしょう? 偉いわねえ。うちのスタッフの若い子にあなたが来ると言ったら、キャーキャー騒いで大変だったの。




小林 いえ、とんでもないです(笑)。うちのスタッフにも、特に女性陣に瀬戸内先生のファンがたくさんいますので今日はみんな来たがっていました。改めてなのですが、今日は対談を受けてくださってありがとうございます。昨秋から背骨の圧迫骨折で療養されていて、つい先日まで歩くこともままならない程だったとお伺いしていたので、今日お会いしてお元気そうだったので安心しました。

瀬戸内 今日は優雅に歩いているでしょう? いつもはもっと颯爽と歩いているんですよ(笑)。何しろ手すりに頼らず歩けるようになったのがここ数日だから。昨秋からはしばらく寝たきりだったんですけどね、今回の東北の震災の時にこれは大変なことになったと思ったら起き上がっちゃったのよ。

小林 そうでしたか。今回の事は、本当に大きな出来事だと僕も思っています。

瀬戸内 これはもう、世の終わりですよね。そう思いましたね。
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小林 そうですよね。実は、僕は震災の前からなんだか予兆を感じていたというか、日本が方向性を見失っているなと思っていたんですね。

瀬戸内 それを感じるのはね、あなたのような芸術家だけなのよ。政治家は感じないの。本当のことを言うとね、私が51歳で出家した時はちょうど石油ショックの前だったんです。その頃、週刊朝日は、その時々の事件を漫画にしたものを表紙にしていたんですよ。私が出家した時は、本当はトイレットペーパーの買い占めを風刺した絵が表紙のために準備されていたんだけど、私が出家したものだから急遽差し替えたそうですよ。そういうことを後に聞いたんですけどね。
あの時の第一次石油ショックから、世の中が非常に悪くなりました。それは何か私も感じてたんじゃないかと思いますよ。このままでは済まないんじゃないかというのをね。口では説明できないし、論理的ではないんだけれど、これは何かおかしいということを肌で感じていたんですね。芥川龍之介の言った、凛とした不安ね。

小林 なるほど。

瀬戸内 その時にね、他には自分の生き方もこのままじゃないよ、ということを感じていたんです。でもそんなことは口幅ったくて言えませんよ。
だから更年期だなんだと言ったり書いたりしているんだけど、本当はそうだったの。でもこういうのを感じるのは芸術家だけよ。そりゃ、なぜ分かったという理由は言えないものなんだけどね。経済学者だったら石油のためにそういう時期だった......なんて理論的に分かるかもしれないけど、そうやって説明できないけれど感じることもなんかあるのよ。

小林 すごく分かります。だから今回僕は、本当にこの時期が来てしまったんだなという気持ちなんです。

今回の危機を、変化する機会に

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小林 僕らは今、ボランティアで東北に行っているのですが......。

瀬戸内 そうなのよね! 炊き出しなんかをやってらっしゃるんでしょう? 本当に私のしたいことを全部やってくださっているのよね。

小林 この間は岩手の野田村というところに行ったのですが。野田村は役場の方々が中心になって村に太陽光などの自然エネルギーの電力を導入しようとしていまして、それに対してap bankで融資させていただいたことがあったんです。それで今回震災後に彼らに会いに行って、今どういう状況で、今後どういう風にしていくのかということを相談しに行きました。野田村では震災で既に38人の方が亡くなってしまい、それでも他のひどいところに比べれば被害が少ないと言えるそうなのですが、町にはもう何もありませんでした。でもその中で彼らは、こういうことがあって今までより強い結びつきや、なかった絆も生まれ出したということを言っていました。もちろん大変辛いことではあったのだけれども、何かのきっかけにはなっているということを話してくれました。
瀬戸内 そう。今回を機に変えることができるわよね。

小林 ただ、まだまだ、「で、どうしたらいいのか?」というところですごく悩んでいましたし。だから外からやってくる僕らのようなものを頼りにしてくれるところもありましたし。僕は今、そういう部分でも何か出来ないかと日々動いています。もちろん僕だけではどうにもできないので、知識のある方や経済に力のある方や、様々な人と結びつきながら、まずはエネルギー問題のことを中心に今後の復興のために出来ることを考えようとしています。経済の流れとという部分から変えていければいいのかなと。前みたいに安いところで安く作ったものをこっちで高く売るという資本主義の構造が、段々ともう変わってきていますよね。途上国と言われていた国の人々の生活水準も上がっていますし。そういう状況の中で、東北が循環していく社会として復興して、ある種のモデルケースのようになっていけばいいなと思ってはいるんです。そういう場に成り得ると思っているのですが。




瀬戸内 それは本当にそうね。ただね、私は24年通っているから分かるんだけど、東北というのは自然も人の心も汚染されていないのと同時に、非常に辛抱強いですからね。発展しようというのはあまりないのね。例えばね、主人が出稼ぎをしている家がとても多いでしょう? それもおかしいことですよ。不自然です。作家の三浦哲郎さんが最後に新聞小説で書いていたのが、ちょうど東北を舞台にした話だったんです。主人が出稼ぎで出かけていて、子ども二人抱えた奥さんが耐え切れなくて不倫を始めるのね。結局、その不倫が子どもに見つかって子どもに脅迫されたりして、段々立場が悪くなって苦労して、最後には海に入水して......という話なの。女として分かるのね、主人公の気持ちが。やっぱり主人が家にいないなんて不自然なんですよ。「女の一生」として、いい小説です。
だけど家族は揃っていられるという普通の家庭を東北に取り戻さないとおかしいと思うの。そういうことをもう東北の人々は諦めてしまっているのね。

小林 辛抱強い分、辛いことも飲み込んでしまうというところもあるということですね。

瀬戸内 そうです。今はまだ1ヶ月半くらいだから夢中だけど、これから欝になる人が増えていくのは避けられないと思うの。そうするとね、もっと自殺者も出てしまうかもしれない。それが怖い。これからそういうことについてどうやって防ぐのかしらと思って。

小林 そうですね......。海も山もあって豊かだけれども、経済を発展させて現金を手にするということでは難しい地域だということですよね。
福島なんかは、そこを解決して地元を豊かにするためにと原発を受け入れてきたというようなこともあるから複雑ですけどね。

瀬戸内 原発のために生活は一時助かるんだということでしょう。それも怖い話じゃない。

小林 そうなんですよね。そう考えると例えば沖縄の基地の問題だって同じようなことですしね。簡単には解決できないことなんですけれどね。そしてこういうことは政府や国というものも絡んできます。実は僕、政治のことにはそんなに関心がなかったんですけどね。興味ある政党が無かったんですよ。支持できる政党がないし......。

瀬戸内 作ればいいじゃない?




小林 そうですね、作ればいいんですけどね(笑)。本当に、勝ち馬に乗って行くばかりのゲームみたいで、すごく単純なことをやっているように見えて......。

瀬戸内 政治家は自分が得をすることばかり考えているのよね。あれはどうしてかしら。自民党だってダメだからダメになったんだから。今は偉そうにあれこれ言っているけど、今の民主党と似たようなものですよ。

小林 日本の政治は、その人がどういう考えの元に行動して結果を出しているのかということではなくて、派閥だったり上司への忠誠心だったり、そういうことで評価されて人事が決まっていってしまう所がいやだし、僕らには見えないですもんね。そういう体制を変えるための突破口として、僕は国民投票のようなシステムができないかなと思っているんですけどね。もちろんそのためのプロセスはあると思いますけれど。
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昔に帰ることもひとつの進歩

瀬戸内 原発だってみんなが「いらない」と言えば、実現できるんじゃないかと思うんだけど。私の周りには、原発がいいなんて言ってる人は一人もいないですよ。一人もいない。

小林 瀬戸内先生は、男と女のことをずっと書いておられますが、僕もやはり男と女には違いがあると思っているんです。
思うに政治のような部分では、主に男が「力」というものを使いこなしたがっていると思うんですよ。人類の歴史上、戦争だって、軍隊だって、武器だって、どんどん進化し巨大化していくという流れがあるじゃないですか。今は資本主義やグローバリズムという名でお金と権力でどうやって世界を牛耳っていきたいという動きがどんどん広がってしまっている。やっぱり男は、しかも割と出来のいい男こそ、そういう気持ちが強いと思うんです。
変な話、僕にもそういう所はあります。だから「原発なんて、使いこなせますよ」みたいなことを言ってしまう感覚が一瞬分かるような気がするんですが、それでもやっぱり僕は原発に対しての覚悟が持てない。リスクが大き過ぎますから。車や飛行機にもリスクはありますけど、原発は自分の想像の範囲をはるかに超えた分からないことが多過ぎるもので、それに対して僕はなんの覚悟もできない。そういうものはやっぱり止めるべきだなと思っているんです。




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瀬戸内 男の征服欲って話よね。男は攻める人間で、女は守る人間なんです。昔から人間の雄は外に狩猟に行っていた。狩猟に行くということは殺しに行くということですからね。自分や家族が食べて生きるために。本来は男はそうあるべきなのよね。でも今の男はもうだめでしょう?

小林 今の男はだめですか?

瀬戸内 本当に、どうしたの?と思いますよ。男らしい男がいないじゃないの。男らしい男というのはね、セックスが強くないとだめなのよ。今の男は全然セックスしないそうじゃないですか。勿体無いわね(笑)。織田信長のような男が本当の男なんですよね。私、さっきからあなたを見ていて、なんだか信長みたいだなと思っていたんですけどね。

小林 ありがとうございます(笑)。では、原発を作っている男というのはどう思います?
瀬戸内 それは、みんな儲かると思ってやっているんでしょう? 損することはないと思っているのね、きっと。作ったところが儲かっているかは知らないけど。

小林 聞いた話で僕も本当のことかは分からないのですが、かつて、日本は原爆を落とされた国において核兵器を作るということには踏み出せなかったわけだけれども、アメリカが「原発を作ることによって日本にもある程度下地を作ればいい」と言ったことで原子力発電所が作られたという説があります。

瀬戸内 ありそうな話ね。

小林 ありそうな話なんですよ。要するに政治家たちは「いざとなれば武器に」ということで原発を持ち始めたということですよね。




瀬戸内 ああ、それは納得のいく話ね。それにしても、日本は戦争で原爆を受けているのに原発に手を出そうと思うというのがやっぱり分からない。もしかすると戦争を知らない人たちかもしれないわね。そういうのはね、人間て目で見て肌で感じないとわからないんですよ。だから戦争の後に生まれてぬくぬく育っていると手を出してしまうのかもしれない。だけどね、フランス国内では今度の日本の事故があった直後は「それでも原発によって栄えよう」という人が80%だったんですって。でもその後しばらく続くこの大変な状況をずっと見ていて「大変だやっぱりやめよう」という人が増えて今じゃそちらの方が80%くらいになってるんですって。フランスはアメリカに次いで原発を随分持っていてそれで繁盛している国でしょう? そんなよその国がそうなのに、日本はそうはならないのね。どういうのかしらね、日本人って。のん気なのか......。

小林 そういうことを自分で考えて答えを出すという人が少ないのかもしれないですね。だから世論が固まってしまって変わりにくい。
瀬戸内 考えなくてもいいから感じて欲しいのよね。それも感じなくなってきているのね。

小林 なってきていますね。一人ひとりが考えて意見を持つということがこの国はまだちゃんと出来ていないと思っているんですけれども。それをずっと飼い慣らしてきているのは、特にテレビで流れるニュースやドラマとかの情報なんですよね。テレビが悪いというわけではないのだけれど......。

瀬戸内 でもつまらないじゃない。

小林 ありがとうございます、言ってくれて(笑)。要するに大企業などが番組のスポンサーになって「こういうのが豊かさということだ、日本はこういう方向に進んでいこう」という風に、テレビを通じて摺りこんでくるじゃないですか。みんな漠然とそこを信じているという部分がある気がするんです。だから今回のようなことが起きた後にも「元に戻れたら幸せ」とだけ思ってしまう人が多いんだと思うんですね。国民性というのもあるのかもしれないけれど。
瀬戸内 それはあまりにも情けないわね。みんな原発がなくなったらそんなに不便だと思うのかしら。私の家は全部電化しちゃったのね。私はそそっかしい上に、やかんをガスの火にかけてもじっとしていられず、その間に仕事をはじめると夢中になって、やかんに穴をあけてしまうのよね(笑)。それで周りが心配してすべて電気に変えてしまったの。だから原発がなくなったり停電したりしたらどうすればいいかと愕然とすることもあるんだけど、それでもいいじゃないかと私は開き直っている。お風呂やご飯は薪で焚いたりしてね。質素にしたらいいんじゃないかと。そうやって昔に帰ることは退化じゃなくてひとつの進歩だと私は思うんです。あれこれやって、こっちの方がよかったから元に戻そうというのは、進化だと思うの。こんなに何もかも電化したら便利すぎて、すべてをポンと指先だけで操れてしまうなんてちょっとおかしいんじゃないかとも思うんです。利用しながらもね。

小林 たしかに今回の停電などは、そういう便利さに慣れきってしまったところにドーンと響いた気がしますね。
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瀬戸内 戦争中なんて物がないから色々と工夫したものね。ここを切り抜けようと思って。そういうのが今はないでしょう。全部与えられて当然なものだと思っていて。全部与えられるということは人間をバカにしますね。恋愛だって相手がこっちを向かないから悩んで一生懸命自分を磨くんであってね。みんながみんな簡単に自分の方を向いたらそりゃ阿呆になりますよ。だから生まれつき綺麗で魅力的な女というのは大体バカよ(笑)。

小林 ははは。たしかに......。

瀬戸内 見た目がみっともないと思えば自分であれこれ考えて工夫します。どうやって自分を魅力的に見せられるかと一生懸命になる。やっぱり努力しないとね。
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瀬戸内寂聴

作家、僧侶。
本名・瀬戸内晴美。1922年徳島生まれ。東京女子大学卒業。63年『夏の終わり』で第2回女流文学賞受賞。73年に得度し、法名・寂聴となる。92年 『花に問え』で 第28回谷崎潤一郎賞、96年『白道』で第46回芸術選奨文部大臣賞。98年には『源氏物語』の現代語訳も達成した。2001年『場所』で第54回野間 文芸賞。06年に文化勲章受章。現在は執筆活動のかたわら、名誉住職を務める天台寺(岩手県二戸市)のほか、四国「ナルトサンガ」(徳島県鳴門市)、京 都・寂庵(嵯峨野)などで定期的に法話を行なっている。


feature_setouchi_profile_book.jpg近著に、安吾賞受賞とともに昔の破滅的な恋が蘇る「デスマスク」、得度を目前にして揺れた心を初めて語る「そういう一日」など、自身の激動の半生をもとにした自伝的短編小説集『風景』(角川学芸出版)など。



寂庵公式サイト
http://www.jakuan.com/
(撮影・取材・文/編集部、取材協力/杉岡 中)

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