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緊急会議 瀬戸内寂聴×小林武史 「今こそ本当の祈りを」(2)

作家でもあり僧侶でもある瀬戸内寂聴さん。これまでの長い人生で様々なことを見つめてきた瀬戸内さんは、この震災を受けて何を思うのか? 政治家について、草食男子について、祈りについて......。じっくり語ってもらいました!

   
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声に出して言える祈りを捧げて欲しい

草食男子なんてだめ

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小林 先ほど瀬戸内先生が、日本の男たちはダメになってきているとおっしゃいましたね。そこにも通じるところがあるのかもしれませんが、日本では徴兵制もない。憲法9条が大事だという人もいますが、要するに何かあったらアメリカに守ってもらおうとしている。戦争が良くないものだという考えはもちろんだけれども、それがずっと続いていくことで、男の役割というものが少し変わってくるのではないかと。もちろん、ビジネスの世界という新しい戦場はあるのだけれど、本当のことをちゃんと話さないことで勝負しようとする事も多い。自分は本当はこう思っているという信念よりも、勝ち馬に乗ることばかり、うまく立ちまわることばかり考えてしまって......。

瀬戸内 低いところでね。低いところでうまく立ち回っている、そういう人間が多くなりましたね。戦後変わったことと言えば、女が強くなったこともそうですね。女性参政権なんて本当に長い間みんなが努力していたのだけれど、最後にそれを獲得できたのはアメリカからぼた餅のように降ってきたもので、本当に苦労した人たちの上に成り立ったものじゃないのよね。
それはいくら苦労しても得られなかったものなの。そういうのを私はずっと小説にも書いてきていますけどね。その辺りから段々とおかしくなっているのね。

小林 女性が強くなる一方で、男は平和志向になってきています。草食男子なんて言われてセックスをしないような男達が増えていますが、そういう、男性の女性化というんでしょうか、女性に近い男性が増えてくる社会というものについてはどう思われますか?

瀬戸内 それは恐ろしいと思います。最近はセックスしない夫婦がいるというでしょう? ハッキリ言ってそれは理解ができないの。本当にみんな、知らないのかしら。ただで出来るあんなにいいものはないのに(笑)。

小林 ははは(笑)。

瀬戸内 草食男子なんて私は見たくないわ。光源氏だって一見、綺麗で優しい男のようだけど、見てごらんなさいよ、あれこれやっているじゃないの(笑)。
それでもね、私は徴兵制には反対なの。どんなことがあっても。徴兵があると戦争を出来る国になってしまうから。私は負けてもいいから、戦争ができる国じゃない方がいいと思うのね。そこは少しあなたと違うかもしれないけれど。

小林 いやいや、全く違わないですよ。徴兵制は僕も反対なのですが、今のこの社会だと軍隊のような規律というか、そういうものが男を鍛えていくところはあるのではないかとは思います。アジアには多様性に対する理解や個々を尊重する気持ちも包容力もあると思いますけど、欧米のように戦って勝ち得て上り詰めることだったり、戦う上でのフェアプレイ精神というものがない気がするんですよね。

瀬戸内 仰る意味はすごく分かりますよ。私はかねてから言っているんだけど、軍隊は反対だけど高校生くらいの間に少なくとも1ヶ月か2ヶ月の間お寺に入れて行をして欲しいの。私は出家した時に若い子どものような男の子たちと一緒に行をしたんですよ。彼らとまるきり同じことをしたの。
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世間は寂聴は行もせず食べ物も別で寺に隠れているだけだろうと言っていたらしいけれどね、そうじゃなくて私は本当に彼らと一緒に行をしていたんです。それをして私自身も非常によかった。その頃はね男の子たちも長髪が流行っていた時期だった。ですからみんなぎりぎりまで頭を剃りたくなくて比叡山の下の床屋さんで泣く泣く剃ってきたりしました。2ヶ月の間修行するんだけど、男の子はその間絶対に頭を剃らないのよ。私なんかは毎日剃っちゃうんだけど。

小林 それはどんな男の子たちが参加していたのですか?

瀬戸内 大きなお寺の、いいとこのお坊ちゃんたちでした。修行をしないと住職になれないから、「帰ってきたら車買ってやるから行って来い」なんて色々と餌をもらってきているの。だから始めは、なよっとしているのよ(笑)。それが1ヶ月くらい経つと目の光が変わってきた。
二ヶ月目は密教の行なので、自分の体は仏になっているから刃物はあてられない。男の子はカミソリを顔にあててはいけないのね。自分の体も仏様であると見なすから、仏様に刃物をあてちゃいけないということで。だからヒゲもぼうぼうになってしまう。でもふっと気がついたら男の子の顔付きまでもが全く違うのね。目が輝いているんですよ。そしたらね、修行中に立ち寄った比叡山の中にある広場のようなところでね、普通に遊びにきているカップルの女の子が「かっこいいわねえ、あの人」って言っていたの。見ると彼女の横にいる恋人は、なよっとしているのよ(笑)。ああ、こういうことがあるんだなあと思って。やっぱりかっこいいんですよね、そういう男の子は。

小林 修行とは具体的にどんなことをするんですか?

瀬戸内 色々しましたよ。例えば三千仏礼拝なんていうのはね、一日に三千回、五体を床に投げだしてお辞儀をしなければならない。それはもう辛いのよ。
それで私が「なんで三千回もやるんですか?」と先生に聞いたら、「質問無用!」と怒られました。「仏を見るためにやるんだ!」と言うの。こんなんで見えるようになるのかなと思いましたけどね(笑)。苦しくて倒れる人もいる。そうすると水をぶっかける。そうして立ち上がるまで周りの人は待っているのよ。だから絶対に途中でやめられません。それでもその修業が一番面白かった。終わったらもう腰が抜けて立てない。そのうえ、修行中の食べ物は一汁一菜だからお腹が空くし、大変よ。たった2ヶ月だけどね、それでも普段経験しないことをして人が変わります。そんな世界ですよ。私も51歳で7キロ痩せてよかった。青年達は2ヶ月で本当に顔も態度も変わりましたからね。徴兵の代わりに、高校を卒業する前くらいの時期にそういう生活を経験して欲しいと思っています。

小林 なるほどね。政治や経済の世界で成功するのにも心の強さというものが求められますからね。

いつでも等身大で動けるように

瀬戸内 経済といえば、あなたお金持ちなんですってね〜! 周りのスタッフが言っていましたよ。今日もこの後おいしいものをご馳走してくださるんですって? あの料亭嵩いんですよ。

小林 いやそれは一緒にお食事がしたかったもので......(笑)。それにしても、今日の講演で瀬戸内先生がお話されていた道元の言葉が印象的でした。「切に生きる」というね。加えて「だから今日はおいしいものを食べて、隠していたお酒も今日飲んでしまいなさい」という瀬戸内先生の言葉もね。

瀬戸内 「おいしいものを食べなさい」は私の勝手な付け足しよ。今夜のことも考えながら(笑)。

小林 ちょっと、そうなのかなと感じていたんですけど(笑)。
瀬戸内 でもね、おいしいものを食べないと本当の味がわからないからね。身を切るように高いもの食べたら、絶対に味を忘れないわよ。

小林 そうですよね。自分が身を以て知ることは本当に大切だと思います。僕にも人並みに経済観念というものはあります。ボランティアに行った時には当然テントに入って寝袋で寝て風呂のない生活というものをしましたし、そうやって等身大で動けるようにならないといけないなと思っています。

瀬戸内 それは大事なことですよ。あなた偉いわねえ。今までだって体ひとつでお金を稼いでいるわけでしょう? 音楽ってそんなに儲かるの?
私だって50年以上文筆業で生計を立てていますけど、まあ家を出るときは一度裸になったけれども、それでももう90歳になるのにきっとあなたの何分の一しか無いわよ。でも、今度のような時、出来る範囲で、ちょっと痛いくらいの支援金を出したいですね。寂庵(※京都嵯峨野にある瀬戸内さんの庵)でチャリティバザーもやったんですけどね、関西の人はそういうバザーでも値切るのよ。

小林 ははは。

瀬戸内 3千円のものを2千円にまけろというから、それはできないから2500円にしよう、なんて掛け合うのも楽しんでいるんです。




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私はその頃寝こんでいて被災地に持っていけなかったでしょう? そうしたらちょうど二戸市の市長がお見舞いに来て下さったから、お金を託しました。五百万に足りないくらいだったけれどいいんです。お釈迦様は貧女の一灯といって、お金の多少にこだわりません。私も個人で別に出しました。

小林 僕らもap bank Fund for Japanという義援金の呼びかけをしていまして。僕個人も寄付しましたが、全体としては2億円くらい集まっています。あとはチャリティーソングを作ったりと。これからもまだまだ色々とやる予定です。1年、2年じゃ終わらないことだと思いますから。

瀬戸内 そう、これは長引くんですよ。それをみんな今だけのように思ってしまっているのね。これからが長いんですよ。仮設住宅なんかに入ったら大変よ。私は仮設住宅もこれまで何度も行きましたが、色々と大変で可哀想ですよ。
小林 実は今、仮設住宅に関しても、東北の木材を使って復興住宅という木の家を作るというプロジェクトを応援しようかと色々と話し合いを重ねているところです。そうすれば東北の木材を使って地元の職人が建てるということで、東北に仕事が増えてお金も落ちるという循環ができるのではないかと。

瀬戸内 なるほど。頭いいのねえ。偉いですねえ。あなたのような頼もしい男の子を見ると、日本もまだいけると嬉しくなります。

小林 色々な人たちと繋がって、そういうアイデアをもらっているんです。

瀬戸内 政治でもそういう若者がわっと寄ってくるような発想を言える人がいてもいいと思うのに、いないわね、今は。あなた、手を挙げれば?

小林 いや、それは考えていないですね(笑)。瀬戸内先生はどうですか? 政治のことは。




瀬戸内 私はなんにでも手を出してきたけれど、政治にだけは手を出さなかったんです。全部の政党から誘いが来ましたよ。だけどやらなかった。それはね、私が若い頃に頼まれて徳島で選挙を手伝わされたことがあったんですよ。私が北京から帰ってきたばかりの頃よ。演説の文章なんかを私が作ったりしました。その時にね、日本の選挙の裏側も全部見てしまった。それで選挙だけはいやだと思ったの。だからあちらこちらから誘われても出なかったんです。

小林 それは正解だったのではないかと思います。

瀬戸内 日本の政治は「数」ですからね。どんなにいい意見を出しても数にやられてしまうの。そうして負けるんですよ。

小林 そうですね。それで言いますとね、今エネルギー政策のことに関しては、特に脱原発ということに関しましては相当世論が集まると思うんです。そこにはもう派閥云々というものも絡めないじゃないですか。民主にしても自民にしても。そこはチャンスなのかなと思っているのですが......。
瀬戸内 私はあなたが出たらいいと思いますよ。だって若い子がみんなついていくでしょう? ちょっと面白いと思いますよ。このままでは日本は変わらないから。でも、もしあなたが出たら変わるかもしれない。

小林 これはけっこうすごい話ですね。瀬戸内寂聴さんから推薦されるという......(笑)。

瀬戸内 政治の嫌いな私が言うんだから。どうせ滅びるならあなたが出て滅んでもいいんじゃない?

小林 うーん(笑)。

瀬戸内 やっぱり、若い人に移った方がいいです。年寄りはもうダメよ。年寄りはさっさと死のう(笑)。

小林 ははは(笑)。

瀬戸内 未来を背負うのは若い人ですからね。その後に子どもがいるんですから。セックスもできないようなじいさんに政治は任せられない。
小林 寂聴さんは明るくて、いい事も悪い事も混ぜて言われていますけれど。そういう、生きて日常の中にあるものが、なんていうのかな......、混ぜご飯みたいになっていますよね。今回の福島原発の事のように、上辺は立派に見えたけど影はどよーんとしていたような、そういう事をやめたほうがいいんですよね。色々なことも、人間の楽しいことも悲しいことも大変なこともきちんと見据えて。

瀬戸内 だって世の中「苦」なんですからね。お釈迦様がおっしゃってます。苦しいことが当たり前なのよ。その苦しさを乗り越えて生きていくんですからね。だから楽をしようと思うのがおかしい。だけどその苦しさもね、これはもうあまりに理不尽だということは受けることないのね。これは人類を良くするための苦しさだということでそれに耐えるのはいいことだけれど。昔の百姓のように明らかに誰かの欲望を満たすために犠牲になることはないの。

小林 よく分かってないことを飲み込むことはないですよね。




瀬戸内 そうそう。第一ね、どうして今、日本で暴動が起こらないのかと思うの。なんで?

小林 本当にそうなんです。やらなければだめですよね。

瀬戸内 若い人にデモしてほしいわよ。外国はまず若い人たちがデモするじゃないですか。

小林 デモは起きていますがまだ少ないですよね。

瀬戸内 そう。私はいつも思ってますよ。なんでデモしないの?このバカ者たち!って。

小林 怒らなければいけないですよね、本当に。
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「祈り」について

小林 最後にお伺いします。「祈る」ということについてお伺いしたいのですが。そもそも、今回のようなことが起きたときに、祈るということが......。

瀬戸内 役に立つか? ということでしょう?

小林 ええ。

瀬戸内 大体ね、神や仏があったらこんなにひどいことは起こらない、というのがみんなの考えですよ。でもね私は元々そんなことで神や仏を頼ってないです。
祈ったらお返しが来る、というような思いはね、それは本当の祈りじゃないんですね。助けてくれるかどうかは向こうの勝手だからね。

小林 そうですね。

瀬戸内 神や仏があるかないかと言われたら、私にはわからないんですけどね、私は90年生きてきて人間の限界というのが身に染みているんですよ。人間がいくら努力したって、雨を止められない、暴風を防げないわけね。
いくら自惚れたって人間の力というのはたかが知れてるんですよ。なぜこの世で太陽と月がぶつからないか、星座は星座を保っているか、それは不思議じゃないですか。答えのでない不思議にみちみちているんですよ。私はその不思議が神や仏だと思うんですね。人間以外の何かが、私は宇宙生命と呼んでますが、そんなものがやっぱりあるんですよ。だから人間の限界というものを自覚したときに、何かにひれ伏す気になる。




瀬戸内 本当に辛いときにね、助けてと思わず言うじゃないの。その時の「助けて」は歌になっているのね。それがジャズの元でしょう? 黒人が苦しい、助けてというのが音楽の元だと思うの。そういう意味で、なにかあるんですよ。ただ、祈ってお返しを求める祈りは、それは祈りじゃないの。それから自分のためにね、例えば「今度買った宝くじが当たりますように」なんてそういう祈りはだめなのね。私は「声に出して祈れる祈りを祈れ」、と言うんですね。「うちの亭主が女作ったから、あの女を病気にして殺してください」なんていうのは、そんなこと声に出して祈れないじゃない?でも今度のようなことで「東北を助けてあげてください」ということは口に出せるでしょう? そういう口に出せる祈りを祈って欲しいし、お返しを求めてはだめ。もうね、1月になるとお賽銭がみんなお札になるのよね。なぜかというと試験だからね、自分の息子が東大に通りますように、なんていうのでお賽銭がお札になるの。
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でもね、自分がバカなのになんで祈ったらバカの子が通ると思うのよって私は言うんです(笑)。そんなのは祈りじゃない。だから、本当の祈りというのは自分のことじゃなく、「東北をどうにかしてください」というようなのが祈りなのよね。そういう祈りというのは聞いてくれるものがあると思うの。それは「念」です。それも1人じゃだめだから、みんなの念を集めようとする。そういうときにね、デモをすればそれが念になるのよ。それをなんでしないのかしらね。

小林 昔は日本も百姓の一揆とかありましたからね。
瀬戸内 あったんですよ。殺される覚悟で直訴したり。今はそういうことがなくて安全ばかり考えてる。

小林 和を以てという変な民主主義と、出る杭は打たれるというようなことが全部ない交ぜになっていてぼんやりしてしまっているんですよね。あと、目立ちたくない人間が増えてますよね。

瀬戸内 私なんて目立ち過ぎて怒られるのよ。投書が来たりするのよ。目立つな、引っ込めって。放っておいてくれって思うわよ。
小林 ははは。僕もあまり目立ちたくはないなと思いますけどね。

瀬戸内 あなたのようないい男は目立って仕方がないでしょう。でも本当に何かをやってくださいね。私がしたくてもできないことを全部ね。

小林 はい、頑張ります。瀬戸内先生ともまた何かご一緒したいです。今後ともどうぞよろしくお願いします。今日は本当にありがとうございました。

瀬戸内 こちらこそありがとう。今度から先生はよしてね。寂聴さんと呼んで下さい。
   
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瀬戸内寂聴

作家、僧侶。
本名・瀬戸内晴美。1922年徳島生まれ。東京女子大学卒業。63年『夏の終わり』で第2回女流文学賞受賞。73年に得度し、法名・寂聴となる。92年 『花に問え』で 第28回谷崎潤一郎賞、96年『白道』で第46回芸術選奨文部大臣賞。98年には『源氏物語』の現代語訳も達成した。2001年『場所』で第54回野間 文芸賞。06年に文化勲章受章。現在は執筆活動のかたわら、名誉住職を務める天台寺(岩手県二戸市)のほか、四国「ナルトサンガ」(徳島県鳴門市)、京 都・寂庵(嵯峨野)などで定期的に法話を行なっている。


feature_setouchi_profile_book.jpg近著に、安吾賞受賞とともに昔の破滅的な恋が蘇る「デスマスク」、得度を目前にして揺れた心を初めて語る「そういう一日」など、自身の激動の半生をもとにした自伝的短編小説集『風景』(角川学芸出版)など。



寂庵公式サイト
http://www.jakuan.com/
(撮影・取材・文/編集部、取材協力/杉岡 中)

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