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緊急会議 小出裕章×小林武史 「原発は今すぐ止めなければならない」(2)

かつては原子工学者として原子力の力を信じていたが、その研究過程で放射能被害や原子力エネルギーの限界を知ったという小出裕章さん。以来40年間、"原子力を止めることに役立つ研究"を続け、反原発を主張し続けている。専門家から見て、現在、福島原発はどのような状況下に置かれているのか? 今後はどのような展開が予測できるのか?(対談日:2011年4月28日)

   
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人間には原子力をコントロールできない

生物と相容れない放射性物質

小林 小出先生は人間と放射線が相容れないものだという風に仰っていますよね。僕は人間が使っているパワーというのは覚悟できる範囲の中で使うものだと思っているんです。例えば車も飛行機も事故の可能性はありますが、そういうリスクも覚悟したうえで使いこなしながら生きているというのがあると思うんです。だけど、放射線に関してはどうにも覚悟の持ちようがない気がしていたんです。そんな時にちょうど小出先生が「生き物と放射線は相容れない」と仰っているのを聞き、その理由が知りたいなと思ったんですが。
小出 小林さんも私もそうですが、偶然か必然か分からないけれどもある時この世に生まれたわけですよね。両親がいて、父親の精子と母親の卵子が合体して1つの細胞が生まれるんですね。それが私や小林さんの始めで、その細胞が細胞分裂をして2つになり、更に分裂をして4つになり......ということでどんどん細胞分裂を繰り返して母親の体のなかで大きくなっていくわけですね。そしてある期間を経て母親の体の中から出て1人の人間として産み落とされる。そこからも細胞分裂を繰り返してどんどん大きくなるわけですね。
ある年齢になれば細胞分裂なんてあまりしなくなり、大体二十歳くらいになるとそれも終わってほとんど形は変わらなくなりますよね。いわゆる大人というのは、60兆個の細胞で出来ていると言われています。でもその細胞一つひとつのDNA、遺伝情報を調べていくと、60兆個が全て一緒なんです。小林さんのDNAは小林さんだけのDNAで、どの細胞をとっても全部同じDNA。でもそれって不思議じゃないですか? 手の皮膚も血管もそこを流れる血も、全部同じDNAで出来ているのに機能は全く違うわけです。
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それは細胞がある特殊な能力だけを発現させて皮膚だったり血液だったりと分かれていくというものすごく神秘的なことが行われているわけですよね。そのDNAというのは、炭素と酸素と水素が手を繋いで1つの化学的な物質を作っているわけですけれども、その化学的物質の作り方によって小林さんという物質が決まる、私という物質が決まる。世界中の六十数億人という人間の全てが一人ひとり違う個性を持ったものとなって生きていくわけです。その炭素と酸素と水素が繋がって1つの分子を作る時の繋がる力を1とすると、放射線が持っているエネルギーというのは10万とか100万とかいうエネルギーなんです。ですから、私たちが放射線で被ばくをするということは、私という生き物を形作っている力の10万倍とか100万倍のエネルギーで爆撃されるということなんです。細胞の中の遺伝情報がズタズタに破壊されていくということですね。例えば1999年9月30日に茨城県の東海村というところの核燃料加工工場で事故があった。そこで二人の労働者が被ばくをしたんですね。彼らのことを日本の医学会が総出で助けようとしましたけれど、結局彼らは亡くなってしまった。放射線というのはエネルギーの塊なんですね。






小出 みなさんも最近シーベルトなんていう言葉をよく聞くと思いますが、放射線の被ばく量というのは、放射線に人間がどれだけのエネルギーを加えられてしまったかということを尺度に測っているんです。人間が受けたエネルギーの量なんです。では、原子炉の事故の時に死んでしまった二人が受けたエネルギーは、いわゆる人間という生き物としてどれほどのエネルギーだったのか。被ばく後、亡くなるまで彼らの体温は千分の数度しか上がらなかったそうです。私だって時々風邪を引けば普段36度くらいの体温が37度になることもあるし、38度になることもたまにはあります。それでも私は死なないですよ。まあ、寝ていればいいし、私の場合は酒を飲んで寝てしまうのですが(笑)、そうすれば大抵治るじゃないですか。
人間というのはそういう生命体であるのに、こと放射線から攻撃を受けた時は、体温が千分の数度上がったくらいで、体温計でなんて到底測れないくらいのエネルギーを受けるだけで死んでしまうということなんです。

小林 要するに熱としてはそれだけのエネルギーなのに、細胞が持っている遺伝情報をバラバラにしてしまうから生きられなくなってしまう、ということですよね。その、遺伝子がバラバラになることで、僕らにどんなことが起こるんですか?

小出 細胞が機能できなくなるわけですよね。
人間の細胞というのは遺伝情報によって皮膚になるのか血液になるのかということが、もう神秘的ともいえるバランスの上に成り立っているわけだけれども、その細胞自身の機能が果たせなくなるわけですね。ですから被ばくした人がどのようにして死んでいくかというと、例えば皮膚が皮膚でなくなっていくわけです。普通は火傷すれば下の組織がまた皮膚を作ってくれるものなのですが、放射線を浴びて火傷をした時はその皮膚の下の組織も放射線にやられてしまっているからもう再生ができないわけですよ。そうやって破壊された細胞を再生することができずに、元の形に戻れなくなってしまうわけです。

もともと放射線物質は自然界に溢れているもの

小林 前から僕の中で整理ができていないのですが......、放射線というのは、自然界のものという言い方をしていいものなのですか?

小出 自然にはもちろんあるものです。46億年前に地球が生まれた時は放射性物質がたくさんあったはずなんです。でも短い寿命の放射性物質はすぐになくなって、比較的寿命の長いものも時を経てどんどん減っていったわけです。地球は元々火の玉でした。そこには大気もなければ水もなく、放射線も膨大にある星だったのですが、段々と冷えていくに従って大気が出来て水も出来た。時間が経つにつれて放射性物質も減ってくるし、宇宙には宇宙線という放射線が飛び交っているのですが大気がそれも遮ってくれるようになった。そういう条件が整って初めて地球上に命が生まれたわけですね。それでも未だに地球が生まれた当時の放射性物質が一部残っていますよ。例えばウランというものがありますけれど、中でも代表的なウランである238番というウランは半分に減るまで45億年かかるという寿命の長い放射性物質です。
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地球が生まれたときにあったウランの半分がなくなって、まだ半分が残っているというわけですね。だから、元々この星には放射線があった、放射性物質があったというわけです。そういうものと付き合いながら生命環境が出来てきたというのは本当なんですね。でもウランというのはほとんど地底にあります。基本的には私たちの生活環境にあるわけではないので、それを地底から引きずりだしてきて原子力、あるいは核という形で利用しようとすると、それで被害が出てしまうということがあるわけです。アメリカ先住民の言い伝えを紐解いていくと「これには手をつけるな」と書いてあるわけですよね。それは昔の人たちの知恵だったのでしょうけれども、現代人というのはそんなことを無視して自分たちで制御できると思って使い始めているわけですよね。挙句の果てにはウランを核分裂させるということまで始めたわけです。
ウラン自身も放射性物質だから危険だけれども、ウランを核分裂させてしまうと危険性が100万倍も1000万倍も増えるというそういうものなんです。

小林 ウランがここにあったらそれだけで僕らは被ばくするわけですよね。それを核分裂させると......、というところがまた難しい話なのですが。例えば石油はどうなんですか?

小出 石油というのは水素と酸素と炭素で出来ている、いわゆる私たちの体と同じような化学物質です。それに火をつけると酸素と石油がくっついて、二酸化炭素になったり、煤を出したり、有毒物質を出したりという化学反応をするんですね。炭素や酸素、水素が、結びつき方を変えて形を変えているだけなんです。
中世に錬金術というものがありましたが、あれは何をしようとしていたかというと、土の中にある色々なもの、例えば水銀や銅や鉄というものを、銀にしてみたり金にしてみたりできないかと考えたわけです。酸やアルカリで溶かしてみたり、もう様々なことをやってみたけれど、結局錬金術はできないという事になった。銅は銅だ、鉄は鉄だ、そんなもの金にも銀にもならないということで、錬金術は廃退したんですよね。でも錬金術は今の化学、つまりケミストリーの基礎を築き上げた。人々はとうとう錬金術ができるようになったのです。それは何かというと、ウランを核分裂させて全く違う物質を生み出すことに成功してしまった。セシウムやプルトニウムという物質を創りだすことを成し遂げてしまったんです。






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小林 核分裂を起こせるのはウランだけなんですか?

小出 天然にあるものではウランだけです。1938年の暮れにドイツの科学者、オットー・ハーンが天然にあるウランが核分裂することを初めて見つけたのですが、その時は第二次世界大戦の時だったわけですよ。そうなると、この錬金術で爆弾を作ったらすさまじい爆弾が出来るということに世界中の科学者が気がつくわけですよ。

小林 そうですよね。すぐにその発想に繋がりますよね。


小出 そこから世界中で原爆を作ろうとし始めるわけです。日本も例外ではありませんでした。でもその原爆を作り上げることが出来たのは、広い国土と圧倒的な資源の量、それから主戦場にならなかった米国だけです。広島に落とした原爆は天然のウランだけで作ったものでした。しかし天然のウランを使い続けるのは資源に限りがあるし大変だ。そのうちにウランを元にして人工的にプルトニウムという物質を作り出せばそれが原爆の材料になると気がつくわけです。
小林 プルトニウムというのは自然界のものではないんですよね。それはどうやって作るものなのか......。

小出 天然の物質であるウランに、中性子という目には見えない小さな粒を1つぶつけると、プルトニウムが自然にできるという物理法則があるんです。それを実行したんですね。そうやって自然界には全くないプルトニウムというものを作り出してその核分裂を使って原爆を作った。長崎に落とされた原爆はプルトニウムで作られたものでした。

小林 なるほど。広島と長崎の原爆にそんな違いがあったんですね。

原子力は無限のエネルギーなのか?

小林 いずれにしてもウラン鉱石というのはまだ地球上にある。それを元手にすればかなり無限のエネルギーを作っていくということができるものなんですか?

小出 私は元々原子力というものをやりたいと思った人間なんですよ。石油にしても石炭にしてもいずれはなくなってしまうだろうから、これからは原子力だと思った人間なんです。でもそれは実は間違えていたんです。どうしてかというと、石油や石炭がなくなるというのは当たり前なら、ウランだって地底に眠っているやつを引きずりだしてきて使えばなくなってしまうのも当たり前ですよね。では石油や石炭とウランのどちらが資源的に多いかというと、ウランというのは石油に比べても数分の一、石炭に比べれば数十分の一しかない、誠に貧弱な資源だったわけです。
原子力が無限のエネルギー資源になるなんてことは実は幻想だったんです。ただ私がそう言うと、いやそうではないと原子力を進める人たちは言うんですよ。

小林 それはどうしてなんでしょう。

小出 そこにはカラクリがあって、「お前が資源としてなくなってしまうと言っているのはウランのことなんだ、俺達はウランのことじゃなくてプルトニウムのことを言っているんだ」と言うわけですよ。ウランは確かに少ないけれど、ウランをプルトニウムに転換していってそれを使うことが出来るなら資源量が60倍に増えると言うんです。それでもせいぜい石炭に匹敵するくらいにしかならないんですね。
そこで彼らが次に何を言うかというと、原子力というのは核融合が実現できるまでのつなぎのエネルギー源ですと言い出したわけです。天然ウラン、プルトニウムと経て、最後は核融合こそが未来のエネルギーだというのが彼らの主張なんです。でも核融合というのはまだ成功していないんです。その前段階のプルトニウムですらうまく出来ていない。高速増殖炉のもんじゅがそうですが、つぶれたままで動いていないですよね。核融合なんて夢のまた夢だと私は思っています。

小林 核融合というのは難しいものなんですか? 難しい長い話になってしまうかもしれませんが......。






小出 大まかに言えば、核分裂というのは今やっている原子力発電所や、原爆で、核融合というのは水爆なんです。ですから水爆を地球上でコントロールして実現して動かそうというのが核融合の考え方なんですが、核分裂の技術に比べれば遥かに難しい技術なんです。

小林 水爆と原爆は簡単に言うと、どう違うものなんですか?

小出 ウランというのはものすごく重い元素なんです。それをパカっと半分に割るときにエネルギーが出るというのが核分裂という現象なんです。核融合というのはどういうことかというと、例えば水素というこの世界にある一番小さな元素をくっつけるとまたエネルギーが出るという物理現象があるんです。融合させるとエネルギーが出るというものです。
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小林 核融合にウランは必要ないんですか?

小出 ウランは必要ありません。原爆を作るときには必要ですけれど、核融合を地上で実現させようとするとウランは必要ないんです。しかし、今実現が一番容易だと思われている核融合の反応というのがあるんですが、それは重水素と三重水素をくっつけようとしているんです。重水素という普通の水素の2倍重たい水素があるんです。それは自然界にあって、放射能は持っていません。
それから三重水素(トリチウムと呼ぶこともある)という3倍重たい水素があってそれは元々放射能を持った水素なんです。その2つをくっつけるときにエネルギーが出るという反応を使おうとしているのですが、燃料そのものが元々放射性物質という、扱い方を間違えたらもうとてつもないことになってしまうという技術なんです。

小林 怖いですね。
小出 そんなことはもうやめておけよ、手を出すなよと(笑)。私は思いますけどね。そうなればすがるべきことは太陽エネルギーだというのが私の考え方で。未だに原子力、核融合なんて夢見ている人たちは少しでも早く考えなおしてもらって、自然エネルギーに切り替えていけるように全体の流れを作り変えないといけないというのが私の主張なんです。
   
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小出裕章

京都大学原子炉実験所助教

1949年生まれ。東北大学原子核工学科卒、同大学院修了。74年から京都大学原子炉実験所助教を務める。原子力工学者として研究していく過程で、原子力発電反対の立場となる。以来、原子力をやめることに役立つ研究を続け、著書、講演を通じて反原発を主張している。著書に『放射能汚染の現実を超えて』(河出書房新社)『隠される原子力・核の真実 原子力の専門家が原発に反対するわけ』(創史社)、共著に『原子力と共存できるか』(かもがわ出版)ほか。

(撮影・取材・文/編集部)

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