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湯川れい子×小林武史 「日本にはまだ再生の感性がある」(1)

音楽評論家、作詞家としての活躍に留まらず、環境問題や社会問題にも深い見識を持つ湯川れい子さん。女性ならではのしなやかな目線の先には、生命と自然、そして音楽との、目には見えない強い繋がりがあった。

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すべての生き物の根本にあるのは、"日月火水木金土"

複雑に絡み合う経済の仕組みが、原発からの脱却を阻んでいる

小林 原発について、意見を言ったり行動に移したりという動きが、色々なところで起きていますよね。

湯川 隠蔽というよりも、あまりそちらの方に触れたくない、というようなことが、これまでのメディアは強くて。Twitterなども、気が付くと情報がどんどん消されている、ということもあって気持ち悪かったんですけれど、そのような動きはまだあるだろうと思いますが、それでも随分とメディアに登場するようになってきましたよね。先日おこなわれた6万人のデモも、掲載紙が増えてきたし。

小林 実際に、一部ではそういうことも取り上げてくれるようになったけれど、基本的にはメディアと電力会社が経済的な頂点に立って、競争原理がなく啓蒙や接待交際の高額なお金も自由に使える、という立場だったことがあるみたいなので。この間も、上杉隆さんという自由報道協会の方から話を聞いて、そうだったのかと思うところもありましたね。

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小林 1985年にスタートした「ニュースステーション」以降、それまで格下の扱いだったテレビの報道が金になるということがわかりだして、そこから随分とスポンサーがテレビに入っていくから。その繋がりによって、原子力政策を推し進めてきたこれまでの流れを「とんでもないことになっていた」と、真っ向から振り切れないところがあるんでしょうね。

湯川 そうですね。私の姪が胸腺腫という病気で今年、亡くなったんですが、決して悪性ではないけれど、アメーバみたいに癌のような組織が広がっていって、やがて心臓にまで絡まって動きを止めてしまうという、とても怖い病気なんです。原発の問題を考えたり関わったりしていると、なんだか胸腺腫のような感じがするんですね。危機感を持っていても、どんどん侵食されていく。例えば、東京電力には何兆円というお金が入ったかもしれないけれど、今回の風評被害も含めて仕事ができなくなったり移動しなくてはいけなくなったりした人に対しても、ものすごい額の補償をしなくてはいけないでしょう。それに、更に海洋汚染が広がって韓国や中国やロシアで捕れた魚介からも放射性物質が検出されてしまったら、日本は国際的に訴えられることになるかもしれないじゃないですか。

小林 そうですね。

湯川 今までは年間2000億円などと言われてきた広告費が動いてきたかもしれないけれど、それが入らなくなってもまだメディアとしては取り上げづらいのかなって。それはなぜか私にわかる範囲で考えたときに、ここに原発を建てたいという調査の段階から、その地域には5年間くらいお金が流れこんできて、いざ建てるとなったら何十億、建てるときにも何百億というお金が入ってくる。そして周りに商店街ができて人も住めるようになり発展していって、そろそろお金が足りなくなったころに、もう一基建てましょう......、ということを1960年代からずっとやってきたでしょう。そこから50年間もきてしまって、お金の動き、経済の仕組みが何重にも構成されているということ。それと、もうひとつは私も政権交代のときに「官僚を中心に、永田町そのものが少しでも変わるのかな」という夢を見ましたけれど、民主党に変わった瞬間に「もんじゅ」が動いたというのが本当にショックで。そこで思いもかけない仕組みの怖さに気がついたんです。鳩山さんが国連で「CO2を25%削減する」ということをおっしゃったときには、私はそれが民主党の総意だと思っていたし、当然のこととして公官庁の了承あってだと思っていましたから。

一国の総理の発言は、それを支えている組織そのものが了承しない限り言えないことだ、という自分のなかでの常識というか、了解があったんです。でも、同じ党の中からも足を引っ張られて、国としてそんなものは誰も支援していないと言われて。それは、菅さんが浜岡原発を止めたときもそうですけれど。では、一国を代表する総理や党首というのは何なのだろう? 経産省や防衛省、環境省などはどういう立場でどういう力を持っておられるのだろう? と、今回初めて真剣に見るようになったんですね。

小林 そうですか。

湯川 それまで自分の中で漠然と思っていたことよりも、もっと複雑に絡まり合っていて。国が基幹産業として原子力発電を補償します、ということが法律の中に組み込まれている。国の法律の根幹にあるわけですから。東京電力だけの問題ではないし、私たちの税金でそれを補填していかなくてはならないことも分かってきましたし。それに、反対と言ったところで、そういう仕組みが自分たちの選んだ政治の中で出来あがっていたということですよね。

小林 そうですね。

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湯川 電力三方なんかもそうですし、そういうことが段々分かってきて。ここまで来ても、まだメディアの踏ん切りが悪いのは一体なぜだろうと考えると、みなさんは簡単に「利権でしょう」とおっしゃるんですが、決して財務省で夜を徹して働いている官僚の一人ひとりがお金をもらっているわけではないんですよね。彼らは彼らで、一所懸命に人生をかけて国会答弁の草案かもしれないし、何か分からないけれど色々なお仕事をしてらっしゃる。というのは何かというと、利権だけではない、既得権だけでもない。構造上、もっと根本的なところで仕組まれて、組み立てられてしまったシステムや流通があると思うんです。それはとてつもなく大きなもので、私たちが10万人、100万人規模のデモをやっても、それを国民投票に持ち込んで、「原子力発電所は何があってもいらない」ということを国民の総意として決めない限り......。

小林 湯川さんは、国民投票は賛成ですか?




湯川 今の段階では、まだ怖いですけれどね。

小林 でも、もう少し国民の意識が上がって認識が深まっていけば、国民投票でみんながきちんと、「原発は早い段階に減らしていきましょう」と言うのがいい、と思っているということですよね。

湯川 はい、そうですね。菅さんもこの間おっしゃっていたように、100年に1度でもこういう事故が起きたら国土として成り立たない、という非常に単純な理由から考えても、それが正解だと思います。

よく「トイレのないマンション」という例えをされますけれど、廃棄物の問題にしても、あるいはウランというものをどこまで人間が使いこなせるかということにしても。または立地条件として非常に日本は特殊ですから。原子力発電所はメカニズムとしては複雑に見えるけれど、実は水を熱くして電力を作るだけのことだから、海のそばになければいけないという条件があって。そういう点から考えると、海のそばで地震があって津波の心配がある、というのは日本と、アメリカの西海岸、カルフォルニアしかないわけです。

だから、全世界的に見れば何が何でも原子力の平和利用が悪いということではないのかもしれないし、メカニズムとしてこれから10年、20年先にウランを使いこなしていけるときが人類として来るのかもしれないけれど、今の日本の状況の中では、どう考えても原子力発電所はあってほしくない。そうすると、やっぱり基本的に健康に生きていく権利がある、という憲法25条に接触するものではないかと思うんですけれどね。

小林 そうですね。

生き物としてシンプルに考えて、原発は自然ではない

湯川 私はまだ2回ですが、色々なかたちで被災地に入ってお手伝いをしてきました。先日も、岩手県から仙台まで海岸線をずっと回ってきましたが、ただの一度だって、原発の「げ」の字も口に出すことができませんでした。やっぱり、それは彼らにとってはあまりにも遠いことで。直接的に、原発事故で被災しておられる方たち、あるいは農業で非常に困っておられる方たち以外は、どうやって今日暮らしていくのか、明日の夢を見ることができるのかということで、精一杯なんです。

小林 僕は山形県の新庄出身なのですが、湯川さんも山形県出身で大先輩なんですよね。

湯川 はい。米沢です。

小林 僕は震災から1週間後くらいに、アルケッチァーノの奥田くんが取っていた緊急車両で被災地に入って、それこそ新庄とかを通って南三陸と気仙沼と石巻を回ることになったんですけれど。そのときは、山形はこれから色々なことをできるかも、なんて話もあってね。

湯川 そうそう。ちょっとしか揺れなかった、とかで。

小林 でも福島原発の事故の影響が、すごく裾野が大きいということが分かってきて。ちょうど汚染牛くらいから、ますます拍車がかかってきたように思いますけれど。こういう発言だって慎重に言わなくてはいけないですが、東北から北関東にかけて大手を振って農業をやっていくのは難しいのではないかという話も出てくるくらい、原因と影響の値がわからないだけにいつまで続くか見えない状況が広がっていますよね。

湯川さんは、今回のことに関してすごくたくさんキーワードを持っていらっしゃって。1960年代というのは、大航海時代から長く続いた大国の植民地化の流れの先に、ベトナム戦争などのさまざまな出来事があった。そこで世界がシャッフルされたはずなのに、日本は大阪万博に象徴されるように豊かさの方にいってしまった。そういった、日本が戦後どういう歩みをしてきたのか、なぜ被ばく国でありながら、平和利用のもとに原子力政策を進めていったのか、ということを湯川さんは音楽を通してだけでなく、女性として経験してこられたと思うんです。先日も、3.11以降久しぶりにお会いしたときに、全部伺うことは無理だというくらいに、色々な次元の話をしていただいて。

湯川 色々な資料を読んで、ああでもないこうでもないと勉強しながら行き着いたところは、非常にシンプルなことで。「自然じゃない」ということですよね。健康じゃない。

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小林 そうですよね。

湯川 どんな科学的な理由と対決しても、それが科学的である限りは対応論が出てくるのだろうけれど。「どうやったら私たちは生きていけるのか」というよりは、「どのようにして生命はできてきたのだろう」と、生き物としてシンプルに考えると、太陽があって月があって......というように、"日月火水木金土"が全部あれば生きていけるんです。"金"はお金ではなくて、ミネラルとか養分ということで考えた場合ね。少しでも平穏に次の子育てをするために、村や国の代表として政治というものを営むようになってきたわけですし、そういうシステムのなかでいかに「こっちが安全だよ、美味しいよ」ということを情報として伝えるかでメディアは発展してきたのだし。それらがどこまで戻れるかと考えると、やはり"日月火水木金土"なんですね。一番元となる、生命の営みというものを外して物事を言っても、どこまでいっても不毛なんです。




小林 それは本当にそうですよね。とても分かりやすい話です。今、一番の脅迫文は「雇用がなくなるぞ」ですが、雇用は何のために存在するのか。食べていかなくては、お給料をもらわなくては、ということだけれど、それは"日月火水木金土"を外している話ですものね。

湯川 そうなんです。

小林 世界との繋がりも、おそらくは雇用なんだと思います。一国を代表する総理や政権政党でも大した力がないと思わざるを得ないのは、その向こう側に「俺達が雇用を作っているんだよ」という経済の大きな力がものすごく幅をきかせているんだな、ということが、特に3.11以降はっきりと分かってきて。

湯川 それは世界的にそうなんですよね。だから、外圧もすごいし、日本単体で考えられないというところもある。 "日月火水木金土"に立ち戻ったときに出てくる経済や雇用についての議論というのは、どうしても男の人の主体、男性原理ですよね。フランスのアルバみたいに女性が原子力のキーパーソンであったこともあるわけですから、フェミニズムやジェンダーだけで考えることはできないかもしれませんが。今回の原発事故では、専門家の方によってそれぞれおっしゃることは違いますが、チェルノブイリの子どもたちの医療に関わってこられた鎌田實先生はとても分かりやすいことをおっしゃっているんですよ。これは未だに続いている人体実験のようなもので、それまでの統計も取れていないし、事故から25年が経ち2代目になって、映画『チェルノブイリハート』のように心臓に欠陥が

ある子どもが産まれたとしても、それはチェルノブイリでなくとも起きていること。 だから、お母さんが放射能をたくさん浴びたからそうなった、という絶対的な因果関係を立証することはむずかしい、と。一方で、原子力の学者さんたちが集まって会議が開かれたときに、放射能の安全基準値を提唱している国際的な機関でも、チェルノブイリでは結局、精神的な不安要素が一番の実害を引き起こした、というようなことをおっしゃっていますよね。私も子どものことが一番心配で、この夏たまたま田口ランディさんなどがやってらっしゃる、夏休みに福島の子どもたちを疎開させるプロジェクトに関わったんです。おかげさまで、ニューヨークのジャパン・ソサエティが2700万円もの支援金をくださって、600人近い子どもたちを北海道に連れて行けたんですね。




小林 そうなんですか。教育委員会などがあまりいい顔をしていないという話を伺っていたんですが。

湯川 はい。福島県はいい顔をしなかったそうですが、北海道側は非常に受け入れをしっかりしてくださって。これは今年だけではなく来年も、もしかしたら5年、10年と続けなくてはいけないかもしれない。そのお金も民間で集めていかなくては、まず無理だと思うんですね。鎌田先生は、放射能値が高いところの子どもたちは、その期間だけでもストレスを外して、いい物を食べさせて、空気のいいところで思い切り遊ばせて、汗をかかせることが、なによりの抵抗力を付けると。また、湾岸戦争で使われた劣化ウラン弾によって白血病で苦しんでいるイラクの子供たちの医療支援をおこなっているJIM-NET (日本イラク医療支援ネットワーク)の活動を色々と見せていただいたときに分かったのも、子どもたちの自己免疫力を高めることと、発病してしまった人をどう保護して元気にできるか、という医療的な手立てをしていかなくてはいけないということですね。

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湯川 この問題はこれから先、日本全国でも否応なく起きてくることだろうと私は思うんです。「じゃぁ、みなさん疎開しましょう」と言えたらいいですけれど、そんな土地は日本にないし、働き手のお父さん、お母さんと切り離して子どもたちだけをそこに連れていくことは、物理的にも精神的にもできない。だとしたら、確かにむやみに脅かしていけないんだろうと。だって、絶対に発病するわけではないのですから。でも、鎌田先生がおっしゃるように、1ベクレルでも食べてはいけない、触れてはいけない、ということもまた事実じゃないですか。

小林 そうですよね、いいことなんてないんですよね。

湯川 もうすでに、日本でも被災地で起きていると言われているのですが、驚くことに家族の絆が大切だという一方で、あまりにもストレスが大きすぎて育児放棄や幼児虐待が起きているんですね。子どもが疎外されてしまって、それが発病の引き金になったりする。そうすると子どもを捨てる、というケースがチェルノブイリでも非常に多く起きたということを聞いていますし、日本がそうならないために今からするべき

ことは、余計な不安感をあまり煽らないで、でもきちんと正確な情報を出すこと。それは被災地の人たちではなくて、今、放射能のことを真剣に考えられる人間が懸命に勉強して、何ができるかということを提供していくしかないんだと思うんです。でもね、それでも今回の事故をきっかけに、こういうことがオープンになったということは、私はまだそれでも救いの道が残されたんじゃないかな、と思うんですよ。

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湯川れい子

音楽評論・作詞家。
昭和35年、ジャズ専門誌「スウィング・ジャーナル」への投稿が認められ、ジャズ評論家としてデビュー。ラジオのDJ、また早くからエルヴィス・プレスリーやビートルズを日本に広めるなど、独自の視点によるポップスの評論・解説を手がけ、世に国内外の音楽シーンを紹介し続ける。講演会、テレビでの審査員、コメンテーターとしても活躍中。作詞のヒットメーカーでもある。近年ではボランティア活動に注力し、地球環境問題をグローバルに考える「RAINBOW NETWORK」の代表なども務めている。
http://www.rainbow-network.com/



(撮影・取材・文/編集部)


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