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湯川れい子×小林武史 「日本にはまだ再生の感性がある」(3)

音楽評論家、作詞家としての活躍に留まらず、環境問題や社会問題にも深い見識を持つ湯川れい子さん。女性ならではのしなやかな目線の先には、生命と自然、そして音楽との、目には見えない強い繋がりがあった。

     
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見えないものの後ろにある想いに、目を凝らす

この国は今こそ、自立しなくてはならない

小林 今日、湯川さんにぜひ聞いてみたいお話があったんです。原子力というところにまで人間が手を突っ込んでしまって、今確かに色々なことに気が付かなくてはいけない時期だと思うんです。世界で言えばありとあらゆる空間で、生存競争が一瞬たりとも止んだところはないわけじゃないですか。そういう意味で、人間というのは甘い平和があるのではなくて、切磋琢磨してやっていかなくてはいけないということと、でもやっぱり人間は食物連鎖も抜けたところの頂点にいて、世界の調和も考えていける存在になったということで、それを両方感じながらオスというものがこれからどう生きていくのか、ということだと思うんですよね。湯川さんは、憲法9条というものをこの世界の混沌のなかで当然守るべきだ、という立場をずっと貫いてらっしゃると思うのですが。でも、それが故に、今の日本は憲法全体を含めて鍵がかかっているという感覚があるのでね。これからの日本人として、自分たちの在り方をもう一度考えていくには、やっぱりここの話というのはなかなか外せないと思うんです。

湯川 そうです。24条とか、先程言った生存権の25条とかね。よく全文から問題にする方もたくさんいらっしゃるけれど、すごく大事なことなんだと思うんですよ。 今回の原子力の平和利用で、広島が使われた、ということがこのごろよく出てくるようになりましたが、これなども憲法9条の問題に、大変似かよったテーマを含んでいると思うの。原発をいじる人たち、あるいは国際的な関係というものが、もう少し構造的に違うかたちであれば、もしかしたら私は原発に対してもそんなに反対しなかったかもしれない。つまり、誰がそれをいじっていて、どうしようとしているのか、ということがものすごく大きいと思うんです。日本には地震があるということと、東海村で起きたようにウランというものが何かも知らない、下請けの下請けの人間が触っている。花火ではないですから、爆発してそこで数人の人が死ぬのとは違うんですね。新幹線や飛行機だったら、乗るか乗らないか選べますけれど、原発をどういう人間がどう触っているか、私たちはそれを国民として選べないということに対する非常に大きな不信感と恐怖心があったんです。

その辺りから、本気で原発の問題も考えるようになった。憲法9条も、そのときにどういう政府が、どういう国際的なバランスの中で変えようとするかで全然違う。 例えばアメリカという国は巨大な軍事産業国です。何回も、アーミテージさんやライスさんが来て「もう9条を捨てなさい。いつまでも飛行機の客席に座っていないで、コックピットの中に入って来なさい」と。それはどういうことかというと、日本も軍隊をもって軍備をして、ちゃんと中国や北朝鮮に立ち向かえるような軍事大国になりなさいということですよね。つまり、どんどん武器を売られるということじゃないですか。

小林 そういうことなんですか。

湯川 原子力爆弾もそうですけれど、爆弾は破裂することを使命として存在しているんです。だから、爆弾に対して「核の抑止力」なんて失礼なんですよ。だって、破裂するために生まれてきているものに、「そこに生涯じっとしていろ」と言っているようなものなんですから。




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小林 ははは(笑)。核爆弾は破裂するために生まれてきているのに、それを抑止するために作っている、ということがですか?

湯川 そう。おかしいじゃないですか。

小林 はなから矛盾していますよね。

湯川 そうなんです。セシウム137というのは原子力爆弾が破裂するまで日本にはなかったものなんです。原子力爆弾を作ったときから、世界のバランスはその脅迫に対してどんどんおかしくなってきた。それを抑止するために、恐怖に対して恐怖で立ち向かうということで、3万発も作ってしまったんですよね。そして、日本もいつの間にかすごい軍事大国になってきて。例えばアメリカと北朝鮮とか、中国やロシアかもしれないけれど、その国とが対峙したときに、日本はアメリカにとって一番の出先機関、出島みたいなものだから、まず先制攻撃を日本にしよう、という話になるかもしれない。

日本は今あるプルトニウムですぐに核爆弾を作れるのだから、先制攻撃を仕掛けたっていいじゃないかという国が、テポドンを打ったら、ボートピープルが1万人来たらどうするのか。もし戦場になったら、地理的に365度が海に囲まれた日本は単体で戦えるのか。今回の原発事故が起きたときに、アメリカは3月13日には放射能のために80キロ離れろと言って、結局アメリカ軍は遺体の捜査もしてくれませんでした。仮に日本が戦場になったときにも、アメリカ軍はここに来て日本人の市民を傷つけずに戦えませんよね。逃げるところだってないのに、どうやって戦うんですか? そうしたら、日本がいくら武器や核兵器を持っていたって、むしろ殺される日本人が多くなるだけじゃないですか。だとしたら、やはり私たちにできるのは外交の力と頭を使うことしかないと思うのです。そこにちゃんと答えを出してくれる人がいたら、私は引きます。




小林 僕もそんなに時間をかけて深く考えてきたわけではないのですけれど。アメリカという国は音楽も含めたすばらしいものを生んできたし、大好きなところはたくさんあるんです。でも、アメリカという国の持っている移民の国で出来上がっているが故の潜在的な恐怖というか、自分たちが正しいと言い張らなくてはいけないというアメリカの宿命みたいなものも含めて。まだ数百年の話ですし、これから長い年月をかけてどういうふうになっていくのかということを考えたときに、アメリカへの依存ではなく......。

湯川 もちろん、依存してはいけないんですよ。

小林 男女のバランスも含めて、日本が自立していくことが正しい姿だろうと。僕は環境のこともそうですが、循環していく社会を目指すことが必要なんだと思うし。先進国が第一産業を途上国に預けていくのは、どうしても違うように思うんです。

湯川 違いますよね。

小林 今、職を失う人間はいるだろうけれど、もう一度自分たちで食住に取り組んでいく必要がありますよね。特に、食とエネルギーというものに関しては、依存を減らしていくことが当然あり得るだろうし。先程、湯川さんがおっしゃっていた"日月火水木金土"までの流れをしっかりとするべきだと思います。

それでも、男がきちんと食いぶちを持っていくという役割は担えるだろうし。

湯川 そうですね。これからの復興だって男の人は瓦礫の山をどうするのか。蓮舫さんには「まず、なぜもんじゅを仕分けしなかったのか?」と申し上げたのですが、今は何兆円というお金をドブに捨てているわけです。仕事がなくて、原発などに駆り出されて働いている人もいるけれど、もんじゅなどに使うお金を復興地に回して、かなり高い日報で「日本の男よ、立ち上がれ!」とやれば、みんな喜んでやると私は思うの。

日本にしか作れないものを守り、育てていく

湯川 それで、これから先TPPの問題などがありますけれど、外圧に対して日本はどうやって生き残るのかと考えたら、私は大島紬みたいになるしかないかなと思って。奄美大島が薩摩藩の支配下で何もかも根こそぎ取られて大変な思いをしたときに、島津藩からの保護を受けて島民は泥から絹を染めて、紬を織って着物にした。それを殿様やお金持ちは喜んで買ったんです。最初の蚕の状態から潰してしまっていたら大島紬はできないから、その技術も含めてそれを大事にしましょう、と。よく「なぜ、田中角栄や小沢一郎は潰されたのか」と言われるけれど、それは巨大な外圧があるからだと思うんです。今回、残念ながら原発で汚れてしまいましたけれども、美味しいりんごやお米のような技術とアイデア、細やかな配慮と自然の恵みのなかで、日本にしか作れないものをいかに世界に出していけるか。アジアで生き残っていくには、「日本は素晴らしいところだよ。でも、これが欲しかったら、日本人ごと取り上げてはいけない」ということを世界に向かってアピールしなくてはいけない。今回、何十億円もの寄付をしてくださった台湾を国として認めないなんてとんでもないことで。言うべきことはきちんと言って、中国とも交流していかないと。

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湯川 有り難いことに、100人の大使よりも女たちがヨン様に夢中になったおかげで、韓国との関係は本当に良くなりましたよね。だから私、韓国アイドルが日本に来るのは大歓迎なんです。そこで民間交流ができていけばいいんだから。日本からも、もっと国策としてアジアに音楽やアイドルを出していって欲しいの。

小林 確かに韓国のK-POPというのは、アメリカの文化を取り入れたんだと思うけれど、スポーツ骨格みたいに音楽を身体的に分析して再構成していくという教育が、かなり日本よりも進んでいますよね。

湯川 国もすごくバックアップしていますから、一気に進んでしまったんですよ。

小林 そうですよね。日本は、独自の文化、社会との生業で色々と変わっていくことをよしとしてきて。

湯川 今回の原子力ムラもそうだけれど、日本はやっぱり音楽も島なんですよね。

小林 日本というのは、ガラパゴスのように面白いものには成り得るけれど、ここのところちょっと短絡的になりすぎてしまっている。

湯川 本当にそう思います。一人ひとりのおしっこかけ競争がすごくて。それが競争力や国力をなくしている。たぶん経産省も環境省も、みんなそうなんでしょうね。そろそろそこに気がついて、自己変革してほしいんですけれどね。私はいつも感じるのだけれど、アメリカというのは多民族で色々な文化が入り交じっていて、アメリカの日本人は保護されるけれど、同じ日本人でもツーリストの私は弾き返されるわけですよ。その大きさというのかしら。向こうの含有しているもののカラフルさと、日本の単色での陣取り合戦とでは全然違う。

小林 なるほどね。でも、日本は単色の中にものすごく多様性があるんですよね。日本は食べ物でも、洋食から鰻から、色々あるでしょう。こんなに楽しいものはないですけれどね。でもそれは、どれも日本の中の味なんだな。

湯川 これが日本の代表です、と、皆の総意では選べないんですよね。

小林 でも、選べないということは悪いことでもあるけれど、こんなに楽しいということでもあるんですよね。

湯川 そうなの。だからさっきの神様の話と同じで、日本に残っているものの良さというものを大島紬のように、みんなの力で活性化していくしか生き残れないのではないでしょうか。




小林 世界的な瞬発力の中で戦っていくのは、難しいところだな。音楽でもそうですけれど、日本の男も能力のレベルはそこまで低くはないですよね。

湯川 全然低くなんかないですよ。足りないのは、コミュニケーション能力だけ。だから、もったいないな、って思うんです。でも、そういうことをやっていきましょうよ。3年が無理だったら、5年後にグラミー賞を取りませんか。

小林 グラミー賞ね(笑)。僕もニューヨークにスタジオを作るとか、何度かトライはしている人間なのですが。到底、湯川さんのような英語の能力にはなれなかったので。

湯川 いや、私は英語なんて本当にできないですよ。だって、英語教育がないときに高校を卒業していますから。全部、歌と映画からしか覚えていないんです。

小林 湯川さんは本当に好奇心が強いですね。洋楽のなかに、ぐっと文学的なものを引っ張り出してくるという。

湯川 うーん、多分、人生の一番の先生だったんでしょうね。今もそうですけれど。

小林 僕らは音に反応したけれど、歌詞には結構そっちのけだったな。それこそ湯川さんが訳しているような邦語を見て「なるほどなぁ」なんていうのはあったけれども。

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よく言われることだけれど、むしろ洋楽好きの日本のミュージシャンというのは、歌詞に引っ張られなかった分だけ、ものすごく音の中で遊んでいったと思うんですよね。

湯川 そう、大滝詠一さんや山下達郎さんなどもそうで、男の人とエルビス・プレスリーの話をするときに「このドラムが」とか「このベースが」とか言うんだけれど、私はそういうのはまるで関係ないのよね。

小林 特に女性はそうですよね。

湯川 私は言葉のみではないけれど、「そこで暮らす人たちが何に泣いて、何に怒って、何に笑っているのか」という景色がその後ろに見えてくるような、こっちをじっと見ている目というものを感じられる音楽が好きですね。

環境に関心を持つということも、私にとっては同じなんです。 原子力も目に見えないけれど、音楽だって目に見えないじゃないですか。まさに"日月火水木金土"の集合体みたいなバイブレーションが音楽でしょ?

小林 湯川さんぐらい、分かりやすいというのはないですよね。

湯川 そう、われながら本当に分かりやすいというか、シンプルだと思います。 


小林 どんなことにも真正面から素直に向かってらして。色々なことが当たり前のように繋がっている、ということを感じました。今日はありがとうございました。

     
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湯川れい子

音楽評論・作詞家 
昭和35年、ジャズ専門誌「スウィング・ジャーナル」への投稿が認められ、ジャズ評論家としてデビュー。ラジオのDJ、また早くからエルヴィス・プレスリーやビートルズを日本に広めるなど、独自の視点によるポップスの評論・解説を手がけ、世に国内外の音楽シーンを紹介し続ける。講演会、テレビでの審査員、コメンテーターとしても活躍中。作詞のヒットメーカーでもある。近年ではボランティア活動に注力し、地球環境問題をグローバルに考える「RAINBOW NETWORK」の代表なども務めている。
http://www.rainbow-network.com/



(撮影・取材・文/編集部)


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