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小出裕章×小林武史 「未来は、私たちの手にかかっている」(1)

原子力工学を研究しながらも反原発を唱えてきた小出裕章先生のもとに小林武史が出向いたのは、福島第一原発事故の混乱状態がピークであった4月末のこと。それから今日までふたりは対話を重ね、交流を深めてきた。そして2011年が終わりを告げようとする12月12日、小林は変わらぬ想いを胸に再び京都大学を訪れた。

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原発事故によって浮き彫りになった、この国の実態

福島第一原発事故は、日本の悪い体質の象徴

小林 お久しぶりです。小出さんと会うのは、数えて5回目ぐらいなんですよね。確か最初にお会いしたのは、4月末頃でした。

小出 小林さんは震災後、ここに随分早くに来てくれましたね。

小林 今年の締めくくりとして、僕らはエコレゾ ウェブにこの対談をアップさせたいなと思っているんです。

小出 はい。

小林 本当に、すごい年でしたよね。3.11があった2011年というのは。

小出 そうですね。私にとっては自分の人生も含めてひっくり返ってしまったような、大変な年でした。

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小林 もしかしたら原子力という問題だけではなく、それまで日本のなかで隠れていたような様々なことが繋がったのではないかと思います。日本が辿ってきた歴史の中には色々な岐路がありましたが、小出さんなどが経験してきた60年代、70年安保から今に至る道を歩んできてしまった問題も、当然ながら福島が抱えている事柄には含まれていると思います。今後、僕らが世界でどのように生きていくのかということにすごく関わっている。「あれは事故だから、ただもっと良くしていけばよい」ということでは決してない、大きな問題だと思うのです。

小出 私のテリトリーは放射能や原子炉だけれど、今回の事故の過程を見ていると、日本という国がどういう国なのか、経済界や経営者が一体どういう人達だったか、ということが歴然と明らかになってきてしまったように思えて。日本の中で生きていれば、誰だってその政治の支配を受けているわけですよね。小林さんみたいな自由人は別かもしれないけれど(笑)、たいていはどこかの企業に雇われて働いている。その経営者達がこんな奴らだったのか、という驚きくらいはせめて伝えたいと思うのですが、国や経済界、マスコミだって事態が収束しているかのような宣伝を流し続けて、殆どの人がもうこれで終わりかけているような気になってしまって。

でも、そうじゃないんです。これまでも「原発の事故なんて絶対に起きない」という偽りの宣伝で騙され続けてきたわけなのに、また騙されそうになっている。そんなのではいけないと思うんだけれど。

小林 既に僕と小出さんのなかでは、来年以降どうやって頑張るのかということは、決意もなにもはっきりと決まっていると思いますけれど。

小出 はい。

小林 改めて現状についてですが、だいぶ脱原発というムードが国民の中に起こってきたにも関わらず、やはり日々の営みの中で泣いたり笑ったりしているうちに、少し風化してしまうことがあるんだなと思って。でも僕は、国民を責められないと思うところもあるんです。だからそういう人に、なんとか伝わるようにしたいと思っているので。ここで一度シビアな話ですが、いわゆるメルトダウン、メルトスルーが起こっていると言われていますけれど、現状福島ではどういうことになっているのかを教えていただきたいです。

小出 はい。福島原発の敷地の中で何が起きているのかに関しては、申し訳ないけれどよく分からないですね。

相手が悪すぎるというか、原子力発電所というのは放射能を抱えているわけで、事故が起きてもどうなっているのか見に行くことができない。それなりに測定器をあちこちに配置してあったわけですが、こんな事故になることはもともと予想もしていないので、数が充分どころか決定的に足りなすぎる。そのうえ、あった測定器すらが、事故の進展のなかで壊れてしまって情報が取れなくなっているわけですから。多分、私だけでなくて東京電力や国も、何がどうなっているのか分からないなかでの格闘が続いている。つい最近になって東京電力は、コンピューターのシミュレーションをしてみたら、メルトダウンした炉心が圧力容器の底を抜けて格納容器に落ちた、と。でも、格納容器の中には厚さ1メートルのコンクリートの内張りがあるので、そのうちの60何センチまでは壊したけれど、まだ30センチほどは余裕があります、ということを言っていたわけですね。それをマスコミがこぞって報道したわけですが、冗談を言わないでくれ、と。そんなものは計算であって、条件を変えたらいくらでも結果は変わってしまうし。事実がどうなっているのか分からないので、前提条件を勝手に与えているわけなんですね。そういうマスコミの在り方、情報の流し方を見て、「この国って何なんだろう」と思ってしまいました。

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小林 つい最近、日本がヨルダンや韓国を含む国々と原子力協定を結び、原発を輸出できるということが国会で決まりましたよね。

小出 はい。

小林 政府も、一応脱原発にできるだけ臨もうというようなニュアンスのことをやっておきながら、やはり経済や産業のためには色々と目をつぶりましょう、ということなのかどうなのか。この国は先進国という顔で世界のなかに参加しているのにも関わらず、どういう態度なのかという本心が見えないままで。自分たちの国の問題はあるけれど、他の国はいいということなのか。原子力を減らしましょうという気持ちもあるけれど、いずれ技術的に発展させていかなくちゃいけないと思っているのか。その辺りも国民に問いかけがない。僕からしてみると、今まで経済を中心とした相当の人たちが原子力を推し進めるということに賭けてきたのだと思うんです。




小林 だからしばらくして落ち着くと、やっぱりその辺りが固まってしまって、その塊を腫れ物に触るみたいになっていくというか。今、本当に難しいところに来ていますよね。

小出 そうですよね。原発の敷地外で起きていることは、既にかなり分かってきているわけです。要するに、広大な地域が放射能で汚れてしまっているんですね。例えば、原発の敷地から45キロ離れたところにあるゴルフ場が福島から飛んできた放射能に汚染され、ゴルフ場が東京電力に除染を求めたところ、東京電力が「それは自分たちのものではなくて、無主物だ」と、つまり主人のないものだと言い出したのだそうですね。そんな理屈が、一体どうやって考えれば出てくるのか私には分からない。もともとウランが原子力発電所の炉心にあって、「そんなものは決して外には漏らしません」と言い続けてきた東京電力がウランを燃やして作った猛毒の核分裂生成物をばらまいた。なのに汚染をしてしまったら、自分のものではなくて無主物だ、と(笑)。東京電力と言えば、政治やマスコミ、経済界を牛耳ってやってきた、いわば日本を代表する会社ですよね。それがこんな会社だった、ということが、私は本当に恥ずかしいです。経営者というならば、こんなことがあり得るのだろうか。

だから今、小林さんが輸出のことを言ってくれましたが、ここまで来てなお原発を輸出すると言うんですよね。 国会で原子力協定をきちんと承認して、輸出のための道ならしをする。経営者も政治家も、まともな神経とは私には思えない。

小林 僕もそう思います。でも、これは日本の悪い体質の象徴的な出来事だと思うんです。今、小出さんがおっしゃったような経営者の意志というものではなく、何か間違った大義のようなものができあがったのではないでしょうか。それが多分、原子力の平和利用や、電力の安定供給のためには自由競争を起こさない方がよい、という考え方だと思うんです。それを検証することなく、一度決めてしまった大義にその人たちがただ乗っかって、利権の恩恵に預っているだけ。そういう構造じゃないかと思うんですね。だから、それが古くなったから見直すという、いわゆる浄化作業のようなものが全然働いていなくて。それがこの国の、「和を持って」というところなのではないでしょうか。一度作ってしまうと、みんなそこに寄り添っているだけという。

小出 恐らく今までは、事故がないだろう、あってほしくない、という願望のもとにかろうじてここまで来たんでしょうけれど。 でも、実際に事故が起きてしまって、想像できないような汚染がある。日本では、人々は年間に1ミリシーベルト以上の被ばくをしてはいけないし、させてはいけない、という法律があるし、放射性物質が普通の環境に存在してはいけない、という法律だってあったわけですよね。1平方メートルあたり4万ベクレルを超えるような汚染は放射線の管理区域の外側にあってはいけないという法律だったのに、事故が起きたらそれを国家自身が反故にしてしまって人々を被ばくさせ続ける。そんなことって、私は有り得ないと思う。法治国家だというならば、国家が法律を守るのが最低限の義務なはずなのに。人々の中には子どももいるわけで、今でも子どもたちが汚染地で生活している。そんなことが現実にあるのに、まだ大義が大切なんですかね?

小林 これから被害が拡大する可能性は決してないわけではないんですものね。

小出 もちろん何年かたてば、たくさん被ばくをした子どもたちにガンや白血病が出てくる。それは、可能性ではなくて必ず出るんです。

汚染を食い止めるためにも、一刻も早い防壁作業を

小林 「格納容器の底に溜まっている」という、ある数値を入れたひとつの例を発表したという話が、先程小出さんからありましたけれども。一般的には、メルトスルーしていると言われていますよね。小出さんなども鉄やコンクリートで覆って、地下から流れ出ないようにするべきだとおっしゃっていましたけれど、まだそれをやっていないですから。小出さんは地質学者ではないわけですけれど、普通に考えてメルトスルーしているとすると、どういうことが地下の中で起こっていくのか。

小出 私は地質学者ではありませんから正確には分かりませんけれど、でも福島第一原子力発電所は海沿いにあるわけだし、山の方から地下水がずっと流れてくるのだとすれば、多分汚染は海に流れるのだろうと思うんですよね。地下水と接触してしまうと汚染を食い止めることができなくなってしまうので早めに防壁を作らなくてはいけないと、私は5月に言い始めたわけですけれど、すでに半年も放置されたままになっています。大変困難な現場でそういう大工事をやろうとすると、人々がまた被ばくしてしまうので私も気が重いけれど、海に汚染を広げたら取り返しがつかないわけですから。

小林 汚染水が山の方にいくということは有り得ないんですかね?

小出 山の方の地下に流れていくということもあるかもしれない。それならば、まだ環境が汚染されるまでは少しタイムラグがあるかもしれません。でも、山際に井戸などを掘っている人がいれば、そういう人たちが被害にあうでしょうね。

小林 そうですよね。地下を通って新潟の方にいく、という話を誰かがしていたと、たまたま聞いただけなんですけれどね。

小出 そうですか。地下水の流速というのはいわゆる地表の川のように速くないので、もし新潟まで流れていくとすれば、かなりの時間がかかるだろうと思います。セシウムという放射性物質は30年たたないと半減しないけれど、それでも陸の方に向かっていってくれたほうが私はまだいいと思いますね。もし海に向かってしまえば、目の前だからすぐに流れてしまう。

小林 海の場合は、既に流れ出てしまった量が分からないですよね。

空気中ならば、地面に落ちた放射能を測定できるけれど。 その分からない、だらしのない感じが切なくなってしまいます。海に入っていった場合、汚染物質は水に溶けていくものなんですか?

小出 セシウムは水に溶けやすいので、多分溶けたまま太平洋全体に薄く汚染を広げることになるでしょうし、溶けにくい放射性物質は、近海に沈殿するのだと思います。そうすれば、そこに住んでいる貝やヒラメのような底棲魚などが近海で汚染するでしょうね。これからずっと、かなり長い間汚染が続くでしょうから、それも調べ続けなくてはいけない。でも、東京電力の言い草によれば「汚染されているのは無主物」だそうですから(笑)、彼らは何もしないということになるのかもしれませんけれど。海で生計を立てている人にとってみれば、大迷惑がずっと続くということですね。

小林 プルトニウムに関しては、小出さんはそんなに心配することないというようなお考えでしたよね。結構、僕のまわりでもプルトニウムが見つかっていることを心配している人もいるのですが。

小出 呼吸で取り込んだときには100万分の1グラムを吸い込んだら癌になってしまうというくらい、プルトニウムは猛毒物質です。でも食べ物を通して摂取する場合には、ほとんど水に溶けませんので排泄されてしまうはずです。ですから、これからあちこちにプルトニウムの汚染が広がって、それを魚や野菜で食べることに関していうならば、私はそこまで危険が大きいとは思わないのです。そのうえ、福島第一原子力発電所から放出されてきたプルトニウムの量は、セシウムに比べると多分100万分の1くらいだと思っているんですね。だからといってプルトニウムが無害だとか、注意をしなくていい、と言っているわけではありませんけれど、被ばくというなかの全体の重みとしては、セシウムが圧倒的に多いはずです。だから、それに気をつけるべきだと私は思っているんですね。

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小出裕章

京都大学原子炉実験所助教

1949年生まれ。東北大学原子核工学科 卒、同大学院修了。74年から京都大学原子炉実験所助教を務める。原子力工学者として研究していく過程で、原子力発電反対の立場となる。以来、原子力をやめることに役立つ研究を続け、著書、講演を通じて反原発を主張している。著書に『放射能汚染の現実を超えて』(河出書房新社)『隠される原子力・核の真実 原子力の専門家が原発に反対するわけ』(創史社)、共著に『原子力と共存できるか』(かもがわ出版)ほか。福島原発事故後の書き下ろしに『原発のウソ』(扶桑社)、『原発はいらない』(幻冬舎)がある。



(撮影・取材・文/編集部)


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