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中沢新一 × 小林武史(1)「いま、僕らが探さなければならないこと」

「僕は中沢さんの影響を多大に受けている」という小林武史と中沢新一さんの対談が遂に実現!「資本主義が死に近づいていっているという感覚が生まれている」という今、僕らはどういうこと考えてどういう行動をしなければならないのか?という問いについて、「政治」「グローバル資本主義」から「音楽」まで、熱く語り尽くした。

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小異は捨てて大同団結をしよう

グリーンアクティブは「糊」

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小林 まず初めにお伝えしておきますが、じつは僕はかなり中沢さんに影響を受けている人間のひとりなんです。全部とはいいませんがかなり著書も読ませていただいていて、今日はこうして対談が実現したことを嬉しく思っています。 このあいだいとうせいこうさんと対談をした時に、中沢さんが代表になってネットワークを作ろうとしているというお話を伺いました。それがいよいよ「グリーンアクティブ」(※注1)という活動として動き始めたわけですが、スタートしてみた感触はいかがですか?

(※注1) 中沢新一氏(代表)、いとうせいこう氏、宮台真司氏、マエキタミヤコ氏が発起人として立ち上がった「緑の党のようなもの」。オフィシャルHPはこちら

中沢 なかなかいいと感じます。今年2月に記者会見をしてからホームページなどの環境も整えて、今は色々な人が入ってきて広がりはじめている状態です。いちばん難しいのは政治的な部分です。そこはこの先どうなっていくか未知です。

小林 でも中沢さんがグリーンアクティブを立ち上げたいちばんの目的は、なんらかの形で政治に働きかけていくということだったのではないんですか?

中沢 やはりきっかけはいろいろでしたから、原発の問題は大きな課題ではない。

でも、原発の問題を問いつめていくと日本の経済とか社会の根本的なあり方の抱える問題に繋がってきました。

小林 たしかにそうですね。

中沢 いま一体何が日本を弱らせているのかと考えていくと、農林水産の問題にしても、金融の問題にしても、生活に関わる重要なものがすべてがグローバル市場に繋がってしまっていることに行き着くでしょう。

ならばそういう問題に取り組んでいくようなネットワークを作らなければいけない、というのが始まりでした。
"脱原発"の運動も色々なグループがばらばらのまま活動しているから大きな力になれません。それぞれがお山の大将みたいになってしまったりね。この状況をなんとか乗り越えるためには僕らが「糊」みたいな存在にならなきゃいけないと考えました。

小林 なるほど。




中沢 ネットワークだけだと力が弱いでしょう。政治的な力もある程度は持たないといけないなと思ったんですね。ただ、そうすると今まであった緑の政党との関係を調整しなければ......とかね。色々なことが難しいんですよ。

小林 そうですよね。僕も同じような思いは持っていました。3.11以降、この国が危機的なことに直面した、または直面していたことがようやく見えてきたりしているわけですが、それ自体がすごくチャンスでもあると思うんですよ。「糊みたい」という表現をされたのは中沢さんが初めてだと思いますが、本当にそうですよね。

中沢 「糊」の機能を果たそうと『第一回緑の会議』を開きました。今のままだとそれぞれ活動している人たちもみんな孤立していて、そのままだと力を発揮しないまま風化するかもしれない。

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そうなるのはいちばん怖いから「糊」でくっつけなきゃいけないと思って3月7日に招集しました。そしたら結構たくさん集まってね。中には匿名にしてくださいという人もいました。組織にバレるとやばいけど個人として参加したい、という人もいるんですね。"みどりの未来"からも何人も来ていたし、放射能問題に取り組んでいる女性グループの方たちも来ていました。僕はそこでも「グリーンアクティブは糊みたいなものだから、とにかくみんな小異は捨てて大同団結をしましょう」と言いました。それには賛同してくれる人が多かったですね。

小林 では、ちょっと角度を変えて、今の福島の原発/放射能問題の根っこがどこにあるのか、という話をしたいと思います。

この国は、原発の体制を変えること、つまりエネルギーシフトをするということから始めていくべきなのか、もしくは、沖縄や米軍基地の問題といういわゆる戦後から今までのアメリカとの関係というものから日本が自立していく、グローバル資本主義の流れからどうしたら僕らは逃れられるのかという、そういうところから考えていくべきなのか。これはまあ、鶏と卵、という話でもあるかもしれませんが......。

中沢 小林さんの仰るとおり、原発の問題の根本には"日本の自立"という問題が隠されているんですね。自立性を失ったことにより、核戦略や産業政策に絡むアメリカからの要請もあって、日本にこれだけたくさんの原発が作りだされてしまった。

今まで日本が憲法9条に関して手つかずで来られた理由というのは、アメリカの経済力、軍事力が圧倒的な安定感と強さを持っていた時代というのが長く続いていたからです。ところがここ十数年、ブッシュ政権以降による湾岸戦争以後、そのアメリカの体制が崩れはじめてきています。経済的にも軍事的にも勢力交代が起こり始めている。代わって中国が台頭してきました。 そういう状況のなかで、沖縄問題や日本の自立の問題が新しい意味を持ち始めている。そういう根深い絡みのなかであの原発事故が起きたわけで、国民にも問題の全体構図が見えてしまっている。

小林 そこで日本がどういう方向に進んで行くか、ということになるわけですね。




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中沢 日本の自立をめぐる問題は根が深い。政治システムに関わる問題です。それを作り変えようとしたら、原発だけが主要な主題とはならないと思うんです。実際、今、エネルギーの世界で起こっている問題がもうひとつあります。それはエネルギー利権のことで。原発は大きな「利権」を作った。それがあらゆる問題に繋がっているわけですが、今、自然エネルギーにも「利権」が作られ始めている。これは、今後の日本の産業や政治に大きく関わってくるのではないでしょうか。ある意味では、そんなに本質は変わらないまま、エネルギーシフトに合わせて利権も移行していくことが、実際に起こり始めています。

小林 それはもう少し具体的に言うとどんなイメージですか?

中沢 風力発電やメガソーラーなどが産業投資の新しいジャンルとなってきています。

中沢 投資自体はよいことなのですが、それがただちにグローバル資本主義や新自由主義と深くからんでいることが新しい問題を発生させています。象徴的なものとしてTPP(環太平洋パートナーシップ協定)がありますが、TPPを抵抗なく受け入れてしまうと、日本人が作ってきた社会システムが根底から解体現象が起こしてしまう危険があります。農業が危機に陥るということだけではなくて、金融も社会保障も含めて、日本の文明自体が危機に陥ることにつながります。ですから、この夏の再稼働の動きに対して勢力を集中させる運動と並行して、TPPに反対する運動もすすめなくてはならない。

脱原発が実現したら全ての問題が解決するとは思いません。

小林 中沢さんは、内田樹さんの対談集『日本の文脈』(角川書店)の中で、「アジア的なものの考え方だけではやられてしまう」と仰っていましたね。

中沢 そうですね。

小林 つまり今この状況で、脱原発云々だけではなくて全体の問題を考えなければならないと。

TPPとかそういうのを排して、僕たちが「アジアの民」として、内田さん的に言えば「辺境の日本人」としての感性をもっと磨いて感覚を研ぎすませて生きよう、ということなのかなと。 でもそれだけでは、砂漠の民(※註 ユダヤ教などの一神教的な考え方を源流に持つ人々の意)が侵略して勝ち取ってきたという流れがあるグローバル資本主義の中で、やはり流されてしまうのではないかという思いもあるわけですよね。

中沢 それは僕もそう思っています。

免疫不全化する社会

小林 では、今回の場合、中沢さんはどこが勝負所だとお考えですか?

中沢 もともとグローバル資本主義は、砂漠の民の宗教的な考え方やイギリス植民地の延長上であったアメリカで成長を遂げたんだけども、今ではそこからも離脱し始めています。いまではアメリカ国家もグローバル経済にとっては不要のものになりつつあります。

中国も、今は国家資本主義の形態でやっているけれど、グローバル資本主義との接触点が多くなってくると、国家が邪魔者になるという時代がいつかくると思います。そういうものが地球を大きく動かしはじめている。 そしてその地球上では、言語による共同体や貿易の障壁などのいろいろな「壁」があって、そのなかでそれぞれの文化や風習が生まれ、それぞれの歴史や文化が展開している。

しかしグローバリズムが求めているものは、そういった「壁」を超えて商品と労働力を流動させていくことです。そうしないとシステムが運用できないような形に変容しはじめているからです。 でも、人間の社会は生命体とよく似ていて、免疫抗体作用を持っていないと、自分の内部で生産と消費を循環させていくことが出来なくなります。そのシステムに自分たちをさらしちゃうことの危険性がいま起こっています。

中沢 生物の身体でいうと、免疫抗体作用を自ら解除してグローバリズムに接続が可能になるわけです。 そうすると、社会としての生命力が破壊されてしまうわけです。以前はこういったことは「癌」に例えていましたが、最近では「エイズ」が比喩として使われていますね。エイズは人間の免疫作用を解除してしまいますから。そういう状態に地球全体が変容しはじめているということなんでしょうね。 それに飲み込まれていくと、今のエコロジー問題であるとかエネルギー問題さえもたやすく吹き飛ばしてしまうような大きな流れが実現されてしまいます。これに対して今のところはいろいろなところで抵抗があります。例えばEU(ヨーロッパ連合)は、大きな生命体を作ることによって抵抗する力を身に付けようとしたんですけれど、それもなかなか上手くいっていませんね。そういう状況を見ていると、19世紀にできた民族国家のほうが合理的なシステムだったんじゃないかと思えてくるぐらいです。

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小林 なるほど。

中沢 内田(樹)君や僕が『日本の文脈』で言ってることは一見すると「反動保守」みたいに見えるところもあると思います。"ガラパゴスでいいじゃないか"というような発言もそうですね。 でもね、日本をもっと開国していくとします。例えば、貿易障壁を減らしてアメリカの保険も金融も自由に入ってこられるようにする。

日本人のお金を日本国内だけで貯めるという状態をやめて、それを世界中に投資していくような流れを作りだす。......そういう方向になってしまうと、環境や社会を地域ごとに立ち直らせていくという、小さいけれど重要な課題がものすごい危機にさらされてしまうでしょう。 ことに、農業は目に見える形でその問題が表面化してしまいます。遺伝子操作種子がいっぱい入ってくる。それに対抗して除草剤を使わなければならなくなってくる。ひいては生命体や生物多様性や自然環境というのがことごとく破壊されることになる。

いままでは個別の問題だったものが、これからはすべてがひとつなっていく時代に突入しはじめているんじゃないでしょうか。それに対抗していくためには地域システム、地域の体力をもう補強していかなければいけないと、あの本(『日本の文脈』)のなかで内田君と僕は一生懸命言っているわけですね。

小林 その"地域"ということですが、政治の中央集権をやめて分権出来るものは分権し、地方自治をもっと活性化させなければいけないという意見がありますが、中沢さんもやはりそこが鍵だと思われますか? 

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最近では大阪の橋下(徹・現大阪市長)さんが声高に唱えているイメージが強いですが、そこに移行しようという意識を持っている人がけっこう多いのではないかと思うのですが。

中沢 地域主義の主張は今に始まったことではなくて、もう100年ぐらいずっとあるんです。国家の機能はいろいろな意味で不合理と害毒を流しているという認識が強くあります。ですから地域主義自体は現代でも大きい流れを作っている。 しかし大阪について言いますと、僕は「大阪アースダイバー」という仕事でけっこう長期間かけて大阪を実際に歩いているんですが、大阪の地場産業がボロボロになっているのが目に見えてわかるんです。東大阪のもの作りの拠点などはほんとうに空洞化してしまっています。もともとそこにいた中小企業は韓国や中国に出て行ってしまって、技術流出が起きている。

中沢 これに対抗する地域主義というのを考えていくとすると、本来ならば技術者達を優遇してもう一回呼び戻して来なきゃいけないでしょう? いろいろな「壁」、生命体で言うところの「免疫」みたいな「壁」を作っていかなければ地域主義というのは守れないはずです。 だけど、橋下さんは地域主義を唱える一方で、もう一方で新自由主義の主張を唱えている。大阪は香港、マカオ、シンガポールのような世界になっていくんだ、と。言っていることが分裂しちゃってるね。じつは、いまの強い指導者というのはみんな分裂している特徴を持っています。小泉(元首相)さんもそうですね。

彼は竹中(平蔵)さんといっしょになって「新自由主義」の構造改革をしました。規制をなくして日本をグローバル資本主義に開いていくことを押し進めた。 ただ、その一方で小泉さんには新自由主義を推進すると社会秩序が壊れていくという予感もあったんでしょう。そこで何をしたかというと「靖国参拝」のパフォーマンスになった。つまり「新自由主義」と「保守思想」という相反するふたつが、彼のなかではセットになっちゃっていた。もしも彼らが本当に自分たちの保守の思想を展開していくんだとするならば、新自由主義的な経済というものに対して、異論を唱えていかなければならないはずです。

原発に対してだって批判すべき立場であるはずなんです。ところが保守右翼の人たちは最近に至るまで、ほとんど原発には批判的な行動をしてこなかった。原発事故が起こった後もそうです。原発は国土を汚し自然を汚し、共同体を破壊して、ある意味で日本の国土を狭くしてしまったわけじゃないですか。それに対して本当に怒らなきゃいけないのは「神流の道」に繋がっているはずの右翼の人たちのはずでしょう。ところが脱原発を唱えているのは左翼なんです。ここが問題です。左翼の人がなぜ脱原発なのかというと、原発が"資本主義の悪"と結びついているからだというわけなのですが......。
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中沢 新一(なかざわ しんいち)

明治大学野生の科学研究所所長

1950年、山梨県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学。宗教から哲学まで、芸術から科学まで、あらゆる領域にしなやかな思考を展開する思想家・人類学者。著書に『チベットのモーツァルト』(サントリー学芸賞)、『森のバロック』(読売文学賞)、『哲学の東北』(斎藤緑雨賞)、『フィロソフィア・ヤポニカ』(伊藤整文学賞)『カイエ・ソバージュ』全5巻(『対称性人類学』で小林秀雄賞)、『緑の資本論』、『精霊の王』、『アースダイバー』(桑原武夫学芸賞)、『芸術人類学』、『鳥の仏教』など多数。近著に『日本の大転換』、内田樹氏との共著『日本の文脈』がある。2011年10月より、明治大学野生の科学研究所所長。



(撮影・取材・文/編集部)


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