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中沢新一×小林武史(2)「いま、僕らが探さなければならないこと」

「僕は中沢さんの影響を多大に受けている」という小林武史と中沢新一さんの対談が遂に実現! 「資本主義が死に近づいていっているという感覚が生まれている」という今、僕らはどういうこと考えてどういう行動をしなければならないのか?という問いについて、「政治」「グローバル資本主義」から「音楽」まで、熱く語り尽くした。

   
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二種類の「国境のない世界」

新自由主義の不健康なバランス

小林 中沢さんが言われるように、経済という等価交換システムが「人間のつながり」のようなものを断ち切っていったんだというのは、日本の社会でも如実なことなんだと思います。ただ、いまの中国やシンガポールのように、ある種の父性原理とでもいうんでしょうか、中華思想のような「強さ」が現状ではうまく回っているという例がありますよね。このあいだ初めてシンガポールに立ち寄る機会があったんですが、個人的に好きかどうかは別として、そういった経済原則の合理性による「強さ」を実感しました。それにくらべて日本はどうにも繊細というか、ひねくれているようなところがあるんだなと感じてしまいます。

中沢 そうですね。ただ、いま実現されているような"バランスの取り方"というのは非常に不健康だから、もっと別の、もっと深い部分の"バランスの取り方"というのがあるのではないか、それが僕らが探さなきゃいけないことなのではないかと思っています。

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小林 「不健康」というのはどういうことなのか、もう少し具体的に教えていただけますか?

中沢 そうですね、例えば小泉さんがやったことが健康だったかどうか。今、僕らの社会が陥っている様々な問題は、あの時期をきっかけにして吹き出してきました。小泉さんは人気がありましたし、政治家としての能力は、強く持っていた人です。ただ、僕らがもっとも大事にしなければいけないと思っているものが、あの頃を境に根底から破壊され始めたという印象がありますが。小林さんはどう思われます?

小林 もちろん持っています。ただ、小泉さんの「新自由主義」と「靖国参拝」、サルコジさんでいえば「新自由主義」と「カソリック的保守」。矛盾とはいえ、これらを組み合わせることで、何がどう問題になってくるのかということころが、いまひとつ僕には明解に説明できないんです。

中沢 そういう形で二極化してしまう今の世界の流れそのものを乗り越えなきゃいけない。 新自由主義の考え方は、資本主義を19世紀の状況に引き戻してしまう側面があります。

20世紀の終わり頃の資本主義は、それまでとは別の方向に自己変異を遂げていく可能性が見えていました。 その資本主義の自己変容の可能性に大きな衝撃を与えたのが「ベルリンの壁崩壊」と「ソ連の崩壊」でした。資本主義に80年代に生まれていた様々な可能性の萌芽が、そのことで一気に逆流に押し流されて、資本主義が単一の方向へ向かい始めていました。

小林 本当にそうですね。すべてはお金の為に、経済合理性だけで回っていくということになって、多様性やそれぞれの個の色合いというものが急速に失われていきましたね。

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中沢 そういうことがいまになってよく見え始めています。資本主義が死に近づいていっているという感覚が生まれています。

小林 その感覚はものすごくわかります。

中沢 そんななかで僕らはどういうことを考えてどういう行動をしなければならないのか。たぶん、小泉さんやサルコジさんのようなやり方では解決がつかないでしょう。

小林 僕がap bankというものを立ち上げたり、そこで農業などに取り組んでいるのは、これからはみんなが第一次産業を選んでいかなければならない時代になるのでという考えがどこかにあるからなんです。それも、強力なリーダーシップを持つ人が「第一次産業をやれ」というのではなくて、みんなが選んでいくようにするということが重要だと思っています。そのためには、魅力のある農業のスタイルをつくるということと、第一次産業がキーになる循環をつくるということが先決だという思いでこつこつとやっているつもりなんです。




中沢 小林さんはその一方で別の可能性にもひかれているのではないですか。

小林 ......というのは?

中沢 いまの経済のシステムそのものにも利用できる部分があって、それを生かして一次産業的なものを豊かにしていく可能性というか。

小林 そうですね......これは本当に難しいところなんですが。例えば橋下さんにあれだけ人気があるのは、強力なリーダーシップという魅力もあるのでしょうが、これまでの堕落した政党政治に国民が深い閉塞感を感じてしまったことが大きな要因なわけですよね。だから、個人的にシンガポールモデル(橋下氏の掲げるカジノ構想)が良いとは思わないんですが、大阪の人たちが彼についていく理由はすごくわかりますね。

中沢 そうですね。橋下さんは指導者としてとても面白い人です。ただブレーンたちの考えがいかにも浅いという印象を受けます。

小林 そのあたりすごく興味がありますが、そこを深堀りするとまた長い話になりそうですね(笑)。

中沢 今日のところはやめておきましょう(笑)。

グローバルなところから切れた組合をたくさん作る

中沢 ap bankのような、農業支援の活動ってもともと「組合型企業」みたいなものじゃないですか? 僕らがグリーンアクティブでやりたいと思っているのが、そういう「組合型企業」をもっといっぱい作っていくということなんです。「バンク(銀行)」というものがグローバル経済というものに飲み込まれてすべてが繋がってしまったからです。そことは繋がりが切れたところにある金融システムをいっぱい作っていかなければいけない。グローバルなところから切れた組合をいっぱい作って、それらを繋いでいかないと、日本だけじゃなく世界中の人間的な社会は破壊されてしまいます。それに対する防御壁をこれから作ろうというのが、グリーンアクティブが取り組もうとしていることです。そういう意味ではap bankは先鞭をつけています。 今日の対談、すごく意味があるなあ。

小林 大きな力から切れたところで組合的にそういうことが増えていく。

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そして、それらが繋がって串刺しになっていくという感覚をみんなが求めているような気がするんです。それは僕だけではなくて、同じようなことに取り組んでいる人たちの多くにそういう思いがあるのではないでしょうか。小さなところで分かれてそれぞれが頑張ろうよといっててもなかなか難しいところがある気がするんですよね。

中沢 たしかに、コミュニケーションが複雑になってくるしね。効率性を良くしてコミュニケーションを疎通させていこうとすると、組合型の組織はじゃまになる。民族とか国家で言葉や文化が分かれている状態も効率が悪い。そういうのを全部解体して、世界的に効率の良いシステムに変えていこうとなると国境がない状態がどんどん作られてくる。 「国境のない世界」というとジョン・レノンの「イマジン」が浮かぶけれど、ここに出てくる「国境のない世界」と、今のグローバル資本が目指している「国境のない世界」というのはどこか本質的に違うんです。

小林 本当にそのとおりですよね。

中沢 おそらくジョン・レノンの思う「No Boundary」というのは、一個一個の存在が自立した単位を持っていて、自分の上に被さっていた"国"というBoundary(境界線)は外していきましょう、そして一個一個の人間同士で繋がっていきましょうということだったと思うんですね。それに対してグローバル資本にとっては、ただ単に「国境など関係なくお金が動く」ということです。今はこの力が音楽の質まで変えてしまって、ある意味で音楽業界自体がものすごい自己変容をし始めてしまっていますよね。

小林 「視覚」がその最たるものですね。ふつうの音楽番組にしてもそうだし、グラミーなどのアワードを観ていても、すべての音楽は(カメラの)カット割りから逆算して作ってるんじゃないかと思うくらいです。

映像にしたときに映える楽曲、それにふさわしいタレント/キャラクターの選定。つまり、音楽を聴くことで魂が自由に揺れ動くことのできる範囲を、音楽が自らどんどん狭めていってしまっているような気がします。 ロックが東を向いていた時代、ビートルズがアジアを目指した時代には、音楽は本来「響き」であって、それがさきほど中沢さんがおっしゃった個のつながりによる多様性や、国境を越えていくことそのものだったと思うのですが。

中沢 いまは「効果」が目的として最初にあって、それに合わせて言葉を組み立てている。

小林 そうですね。もちろん「効果」が大事だということは僕も重々わかるんです。エンターテインメントの部分とかではね。でも、音楽には本当は別の息吹や命というものがあるはずなんです。

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中沢 僕は音楽に救われたっていうところがすごくあって。二十代の頃に学問をやっていて、知性の感覚のバランスが取れなくなってしまった時期があるんです。それで人格が危険な状態になってしまって。 これをどうやって乗り越えていったらいいかなと思ったときに自分の前に仏教があらわれてきて、チベット仏教を勉強するためにネパールへ出かけていきました。3年ぐらいかけて自分の中で壊れはじめていたものをもう一回再構築して作り直して、かなりバランスの取れた状態で日本に戻ってきたんです。 そうしたら、不幸なことにそのころ日本では「ニュー・アカデミズム」なるものが始まっていて、ものすごく知的なことを要求されるわけです。周りはもう知的な人ばかりで、そのなかでまた苦しい状態になってしまう。僕からするともう、知的な人たちと同じことを考えたくないし、いっしょに何かやることなんて出来ない......。 そうしたら、不思議なきっかけがいろいろあって、細野(晴臣)さんが現れたんです。




中沢 そのとき、細野さんは細野さんで僕と同じような問題を抱えていた。YMOはある意味で音楽の知的な側面を強くしすぎてしまったじゃないですか?  細野さん自身は、音楽には「みぞおちの辺りが疼いてくる」というようなものを求めている。それなのに、周りはなんだか大脳で音楽を処理するようになってしまっていて、それが行き着くところまでイっちゃった感じがする、と。それは僕が抱えていた問題と全く同じだったんです。

小林 なるほどね。

中沢 それで、ふたりで「観光」(中沢さんと細野さんの共著)の旅を始めました。そういう知的なものと感覚的なもののバランスを、身近な伝統のなかで確認しようというのがテーマでした。この旅で、僕は段々とまたバランスを取り戻しはじめたんですよね。そこで僕は音楽の力を再認識しました。 音楽は元々ただの音ですが、そこに五度のずれというのが発生した。基音と五度音の違いというのは人間にすごい微妙な感覚を与えるます。

まさに知的なものと感覚的なものが一体になって快感を生んでる。そこから自然にペンタトニック(五音音階)が発生した。音楽はものすごく古い。そしてそれは考えてみれば知的なことでもあります。そのころ人類はカレンダーを刻むなんてことも同時に始めている。つまり、音楽が「数」というものを人間の頭のなかに発生させたんです。

小林 ハーモニーとしてもそうだし、リズムとしても音楽は数を考ますからね。

中沢 人間の音楽っていつも合理化できないズレみたいな部分があって、そこが細野さんの言う「みぞおちが疼くような」ものを発生させる元になっているんです。 ところが19世紀になってヨーロッパで平均律というのが考え出されて、音程を平均してしまう。これは、ズレをいかに消していくかというヨーロッパ人の挑戦だった。こうして音の組織は完全に合理化されてきて、今まで民族音楽がやってきた不条理な感覚とはかけ離れてしまった。

小林 まあ「成長」とも言えるでしょうけども。

中沢 そうですね。こうして音楽が段々と合理化されていって、教会音楽がクラシックになり、すごいシステムを作って、最後はもう全然楽しくないものになってしまった。現代音楽ですね。シェーンベルクなんかは、これが西洋音楽の命だと思って合理化の極地まで持ってっちゃう。そうするともう全然楽しくない音楽になってしまうわけです。では「なんで楽しくなくなってしまったのか?」。これは仕方がないんですよね。西洋音楽が「合理化する」というシステムでやってきたからです。 そこでロックが生まれてきました。「合理化」ではなく「快楽」という原形に音楽が戻って来るわけです。ロックはプログレに至るくらいまで、不合理の探求をやってきた。でもそこに今度はお金というものが強力に入り始めて、また「別の合理化」が始まってしまった。それによって、快感の発生原理みたいなものが消えてしまうんじゃないかという気持ちが細野さんを不幸にしていた。そしてそれは今の状況にまで続いているわけです。




中沢 これはもう最初に話していた問題と全く同じ主題なんですよ。新自由主義と、それとのバランスの問題とか、組合型の組織とグローバル企業の関係とか。音楽にはそういうことがいちばん端的に現れているんじゃないでしょうか。

小林 なるほど。すごく実感として分かるところがあります。 ......で、予定の時間を越えてますがどうにも話が尽きないので、続きは食事でもしながらにしませんか?(笑)

中沢 そうしましょう。小林さんと話していると楽しいなあ。

小林 では、これを読んでくださってるみなさまにはとりあえず今回の対談はここまでということで(笑)。ぜひまた続編もやらせてください。ひとまずありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いします。

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中沢 新一(なかざわ しんいち)

明治大学野生の科学研究所所長

1950年、山梨県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学。宗教から哲学まで、芸術から科学まで、あらゆる領域にしなやかな思考を展開する思想家・人類学者。著書に『チベットのモーツァルト』(サントリー学芸賞)、『森のバロック』(読売文学賞)、『哲学の東北』(斎藤緑雨賞)、『フィロソフィア・ヤポニカ』(伊藤整文学賞)『カイエ・ソバージュ』全5巻(『対称性人類学』で小林秀雄賞)、『緑の資本論』、『精霊の王』、『アースダイバー』(桑原武夫学芸賞)、『芸術人類学』、『鳥の仏教』など多数。近著に『日本の大転換』、内田樹氏との共著『日本の文脈』がある。2011年10月より、明治大学野生の科学研究所所長。



(撮影・取材・文/編集部)


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