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安藤忠雄

no

02

小林武史 × 安藤忠雄

建築家の安藤忠雄さんと小林武史による対談、そのテーマは「農業」。
土に触れること、そして試行錯誤を繰り返し、植物を自分の手で育てること――。
これからの時代、そんな「実感できる場」として、若者が農業に参加することの意義を語り合いました。

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第1回 「安藤忠雄×小林武史 農業をやってみて、実感する」

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小林
2月に石垣島で田植えをしてきました。僕らが、ap bankを始めたきっかけは、すべてのことがお金で代替されてしまって、ものごとの本質が見えなくなってきていると思ったからです。本質っていうのは、い ろいろなものの命をエネルギーとして交換したり、いただいたりして、僕らが生きているということだと思います。
 今、日本の経済が大変になっているときに、自分たちの足元に触れて行く動きを、ap bankでやっていきたいなと思い、まずは自分で田植えをしようということになりました。今年のap bank fesで、そのお米を、kurkku kitchen(クルック キッチン)のメニューとして使って、何か流れが作れたらなと思って、田植えをやってきたんです。

安藤
今、確かに世界中不況ですね。ここ20年くらい、我々は一つの価値を求めて生きてきたわけです。いわゆる経済力 という、それは片方で力になったんでしょうけども、ここに来て、役に立たなくなってきた。逆に、例えば音楽とか芸術とか、もしかしたらなくても生きていけ るかもしれないけれど、これらの重要性というものを、放ったらかしにしてきてしまった。一番重要な人間の心を豊かにする部分を捨てて、一番現実的に役に立 つ経済的な問題だけを追求して、経済的に豊かになればいいと勘違いをしていた。この20年間くらいその勘違いの中で、世界中が走って来たわけですよね。

小林
そうですね。

安藤
もうちょっととどまるために、もっともっと音楽があったり、映画があったり、美術があったりした方がよ かった。そして、それを通して生きる喜びを作るべきであったと思います。  たとえば、我々の建築事務所の若い人たちに、「石の重さを知っていますか、レンガの重さを知っていますか、木の柔らかさを知っていますか」と聞くと、 「コンピューターで見ているから知っています」と答えます。コンピューターで見る石と、実物の石とは全く違うことがわからないままに、生きてきたわけで す。田植えをして育ててみると、うまくいくこともあるし、うまくいかないこともある。たぶん、うまくいかない場合の方が多いと思います。そのときに現実を 見て、ショックを受けたり、考えたりするわけです。私はやっぱり、そのようなリアリティが非常に大事だと思いますね。特に都会の人には大事でしょうね。

小林
都会で育った人たちが、自分の仕事のために田舎に行って農業をやる、そういう可能性があってもいいですよね。

安藤
そう思います。

小林
人材を交換していけるような、ap bankもそういう役割も担えるといいなと思っているんです。たとえば、東京の機関で育てた農業のプロフェッショナルが、地方に行って農業をやれるような ことができないだろうか、とかね。最近、東京都庁の方とも話す機会があって、そのような話をしたことがありました。

安藤
もっとネットワークを広げていったらいいですね。これからの日本は、中心である東京だけでなく、地方も強 くなっていかないといけない。そのためには、強い人間を作らないといけないのです。強いというのは、生きていることに対する思いがある人間、生きているこ とに対する愛情のある人間だと思います。
ap bankがサポートして、農業やってみようかと思う人が集える場所があるといいですね。まずは、やってみようかと思うだけでいい。その次、行ってみる。その次、やってみる。だいたいうまくいかないと思いますよ(笑)。だけど、その中で人間の心が通いあうことが一番重要なんです。

小林
僕らも、実はap bankで子供たちが集まれる場所ができないかと考えています。野球の野茂英雄君と仲良くしていて、彼ともそういう話をすることがあります。彼は、スポー ツ選手は死ぬまで現役ではいられない、でも、その人たちがまた世の中の役に立つこと、たとえば、農業など地面に近いような仕事をやってみるのはどうだろう か、とか、そういう話もでました。一方で、子供が成長する過程で、スポーツで人格を形成するのは、すごくいいとも言っていました。
だから、たとえば野球がやれたり、音楽がやれたりする施設を作り、人が集まってくる、さらに宿泊施設があったり、レストランが併設されていたり。農業を、きちんとその周りから捉えている場所を作れないかなと思っているんです。

安藤
でも、現実に地方都市には、そういうことができる場所が、結構山ほどあるんじゃないですか。もしかしたら、建物はあまりいらないわけでしょう? 簡単な小屋のようなものがあれば十分だと感じます。

小林
そうですね。僕らはまだ勉強不足なんですが、安藤さんが手がけられた直島に興味があります。あのような、 エネルギーの交換ができる場所は、いいなと思うんです。そういうところに行くと、自然の恵みを自分で感じながら、美術館でアートを鑑賞できる。アートは、 宇宙の中に僕らがいて、いろいろなことのエネルギーの交換を、表現しているともいえると思う。だから直島みたいなあり方も、少し参考にさせてもらいたいなと考えています。

安藤
私は、直島の町づくりに約20年、参加しているんですよ。初めて行ったときは、「この島に人来るのか な?」と思いました。岡山から船で20分、高松からも50分くらいかかります。だけど、やっぱりみんな、一回自分の足で歩いてみて、自分の目で海を見て、 自分の目で山を見て、緑を見て、自分たちの生きてきた歴史のある民家を見て、そこに入ってみて、意外と生きているということは面白いなと発見できるから、 また来るわけですよ。そして、20年たって、日本人は感性に訴えかけるとけっこう動くなと思いました。
今、地方には土地や建物が、たぶんいっぱいあると思います。例えば、廃校になった小学校を使えばいいんです。私は今さらね、新しい建物を作っても面白く ないと思います。直島はほとんど建物がなかったから作りましたけれども。そこに、廃校になった小学校があったりすれば、十分に人が集まる場所はできますね。

小林
ぜひ、企画を立ち上げますから、相談にのってください。
(撮影/浅田政志)

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安藤忠雄プロフィール

建築家。東京大学名誉教授。
1969年安藤忠雄設計事務所設立。
住宅、公共施設、商業施設など国内外の多くの建築を手がける。代表建築は大阪の「住吉の長屋」香川県直島町の「ベネッセハウス」東京の「表参道ヒルズ」など

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