第5回 "いい循環"のモデルケースを作る
- 小林
- ap bankは今度、自分たちで農場をやるというプロジェクトを立ち上げたんです。
- 江守
- それはどうするんですか? マーケットで売るとか?
- 小林
- マーケットでも売ると思うし、そのあたりの流れも今、考えていることころです。千葉の農場で作ったものを自分たちでどこかのお店で提供する、というような循環も生みだすことができたらいいなと思っているんですけれど。
- 江守
- 農業のことは僕はあまり詳しくないのですが、今、枝廣さんの訳したリサージェンスの本(「つながりを取りもどす時代へ―持続可能な社会をめざす環境思想」)を読んでいるところで、「穀物の価格というのはほとんどアメリカの大農場で、国が補助金をいくら出しているかによって国際価格が決まってしまう」と書いてあったことに驚きまして。きっと農業にもそういう規制がいろいろとって、その中で、一念発起して参入した人たちが新しいことを実現してくのも大変なんだろうなと。
- 小林
- 本当にそうなんです。ただ単に農業に従事する人が増えればいいという問題ではなくて、その後にうまく循環するシステムがないと。だからこそ、生産者の気持ちと、売る側の気持ち、そして買う側の気持ちも、経験して探りながらやっていかなくちゃいけないと思うしね。千葉の農場も、そういう意味でのチャレンジのひとつだと思っています。
でも、それでひとつの流れが出来たら、どんどんそのやり方を応用して、いろんな人が続いてくれるんじゃないかなとは思っているんですけどね。

- 江守
- 最近、新しい形の野菜の直売所なんかも増えていますよね。
- 小林
- そう、それもね、少しブームみたいなものになると、多少のトリックも生まれてくるんですよね。生産者が自分で値をつけることができるから、割高なこともあったりね。それにほら、少し話題になっているからといって、遠くからわざわざ買いに来る人なんかもいたりして。そうなるとね、ちょっとした旅行気分になってしまって、どんなものを食べても美味しく感じてしまったりね。ほらやっぱり、来てよかったと思いたいでしょ(笑)これが、直売所が街中に増えてくると、消費者は一気にシビアになりますからね。そこからが、難しくなると思うんです。
- 江守
- 直売所でも同じ直売所で誰々さんのキュウリ、誰々さんのキュウリと並んでいて、それで競わせるところもありますよね。生産者の士気を高めるようなシステムというか......。
- 小林
- これはブランド野菜だから高いけど美味しいよ、これは有機野菜だから高いけど美味しいよ、と言われると、つい納得してしまいそうになるけれど、たとえばそれらのキュウリを目をつぶって食べ比べて、言い当てられる人ってそんなにいないと思うんです。だからやっぱり最後には、その製品にふさわしい適性価格の中で、どれだけいいものを提供するかということになってくると思うんですよね。これからは。
- 江守
- 農業でも、すごい農業の天才みたいな人が作る野菜とそうじゃない人が作る野菜とでは違う、というような差ってあるものなんですか?
- 小林
- 努力の仕方で全然変わってくるものだとは思う。ただ、肥料の問題なんかが出てくるとこれがまた複雑でね。味をよくするために化学肥料を使い始めてしまったり......。消費者が何を求めるか、それにどう応えるかという問題が出てきますよね。

- 枝廣
- 消費者のためを思っているんだろうけど、余計なおせっかい、みたいな工夫も世の中に多い気がします。例えば、最近果物を買うとみんな甘いですよね。あれは出荷する前に全部、糖度をチェックして、レベルに達していないものは廃棄してしまったりしているからだそうです。昔はときどき酸っぱいものがあったり甘いものがあったりするのが当たり前だった。果物を買う時には、この果物はこういう色が甘いんだとか、こういう形が美味しいんだ、なんて予想しながら買ったり、食べてみて、甘いからあたりだ!とか、酸っぱいからハズレだ~なんていうのも楽しみのひとつだったんですけどね。
- 江守
- 枝廣さんは酸っぱいのが好きですよね(笑)
- 枝廣
- そうなんですよ(笑)なのに、なかなか酸っぱいのが買えないんですよ、最近は。
なんだかすごく刹那的な、利便性や快楽を求め過ぎてしまっているような気がします。消費者だけではなく、生産者や売る側や、みんなの目線を変えていかなければならないのかなと。 - 小林
- いたずらに糖度を上げたり、そうじゃないものは捨ててしまうのではなくて、果物本来の味を守っているんですよ、甘いものも酸っぱいものもあると思うけど、みなさんどちらも味わってみてくださいね、って正直に言われたら、逆に買う気にならない?
- 枝廣
- いいですよね。それがコミュニケーションですよね。
- 小林
- そうそう、昔の八百屋さんなんか、今日のこの野菜は水っぽいよ、でもこういうのはこんな料理にしたら美味しいよ、なんて、料理の仕方までアドバイスくれたりしてたじゃない。そういう正直さや、コミュニケーションによって、売る側と買う側の信頼関係を作るんじゃないかなと思うんですよね。
最近僕は、いろいろなところで「結局、大切なのは正直であることだと思う」と言っているんです。伝える方にも受け取る方にも、根底に「正直さ」がないと、物事はどんどん誤解して間違えた方向に進んでしまう気がする。 環境問題についての様々な議論も、みんなが正直に話しあっていけば、きっと方向性が見える。と、信じたい。 今日は本当にありがとうございました。
