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岩井俊二

no

07

小林武史 × 岩井俊二

『スワロウテイル』での伝説的なコラボレーションから、小林武史の初監督作品『BANDAGE』へ。
互いを「盟友」と認める二人が、これまでの軌跡をふりかえりつつ、新しいスタートラインについて、語る。

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第5回 ピュアに物語をつくる

岩井 
BANDAGE バンデイジ』が初監督でしたけれど、小林さんは驚くくらい、最初から「監督」でしたね。
小林 
もちろん緊張したし、大変ではあったけれど、楽しかったんだよね。そういう意味で、ストレスはなかった。
岩井 
監督の一番大事な仕事は、「この作品は、どうあらねばならないのか」という軸を、ぶれずに持つことだと思うんですよ。それがつかめていれば、判断するときにも迷わない。でも、若い監督の中には、「この人、監督は向いてないんじゃないかな」「どこを見てるの」という人もけっこう多いんですよ。 不安いっぱいで、「これで映画がよくなる」という確信もないまま、ごまかして監督業をやっているというような。自分でも「監督は不得意だ」って思っているんじゃないかな、という人。
小林 
じゃあ、監督に向いている資質って?
岩井 
小林さんみたいな人です(笑)。 物語を作り上げていくこととか、映画を作りあげていく核が、どうあるべきなのかということだけしか考えていない人。言いかえると、クリエイティビティにおいてピュアであるということ。なかなかいないんですよ、そういう人。 たとえばある映画を見て、「あのシーンが良くわからなかったんだけど」と監督に訊くと、「いや、あそこにはこういうものも写ってましたよね」とか言われてしまう。 いくら監督が撮った気になっていても、観客に十分に伝わっていなければ意味がない。説明したつもりになられても困るんだよな――といった事態はプロの仕事でもいっぱいあります。それは監督が物語を詰めきれていないんだと思う。 そういう意味で、「この人は監督に向いてる資質だな」という人は、ほとんど会わないです。だから、小林さんは非常に稀有な方だと思います。

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監督に必要なもの

岩井 
初監督となると、「どうしていいかわからなかった」で、1か月が終わっちゃう人の方が多いと思うんですよ。助監督を20年やって、初めて監督デビューしても、もうわけもわからず終わっちゃう人もいると思うので。 そういう意味でいうと、小林さんには資質もあっただろうし、別な場所では充分百戦錬磨だったということを、『BANDAGE バンデイジ』で裏付けたな、という感じがします。
小林 
本当にラッキーだったんだと思うよ。最後まで、ストレスがなかったから。
岩井 
初監督の心労で白髪になっちゃった人とか、悲惨な例をいっぱい知っているので、実のところ少しは心配したんですよ。でも、最終日に現場へ行ったら、小林さんが一番楽しそうにやっていた(笑)。現場もすごくいい雰囲気で。 撮影現場って怖い所でもあって、だましが効かないんですね。たとえれば草薙の剣というか、間違いのない確かな価値観と、ナビゲーションができるかどうかが監督には必要なんです。草薙の剣を持っていれば、無口な人でもみんな付いていくんだと思うんですよ。 それを持ってないと、いくら口数が多くても、スタッフも役者も気づいてしまって、言葉でごまかそうとしても、どんどんチームが悪くなっていくんだろうなって気がします。 結局、嘘は通じないんですね。「この監督に確信を持って付いていきさえすれば、すごい作品になる」と、スタッフが自然に信じられるのは幸運な瞬間。でもそういう化学反応は、なかなか起こせるものじゃない。

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みずみずしさを撮る

小林 
最近思うんだけど、岩井君と僕ではお互いもちろん違うものを持っていると思うけど、ロック的なアタックの仕方とか流れをまわりと比べてみると、実は似ている感じがするんだよ。 岩井君の『打ち上げ花火~』を観たとき、子どもたちが芝居をしている感じじゃなくて、とてもリアルで、斬新な撮りかただと思った。「子どもとはこういうものだ」といった、決めつけがなくて。 今回、初めて監督をやってみて、ドキュメンタリー風な雰囲気や撮りかたは、役者や物語をみずみずしく撮ることなんだとあらためて思ったんです。 僕はよく「ジューシー」って言うんだけど、生の感じ、みずみずしさはものすごく大事で、ジューシーさをどんなところでもちゃんと発見できるのは、自分が関心を持てるかどうかにかかっているから。 それは自分のクリエイティブに忠実、正直であるということなんだろう、と思う。 『スワロウテイル』のように、エンターテイメントとしてのラインもきちんとありつつ、各ショットやディテールがきちんとしているとか。物語も大事にしつつ、でも物語の奴隷になっているわけじゃない――という感覚が、僕たちは似ているよね。
岩井 
僕のやりかたは韓国に飛び火してしまって、そちらで第2世代が生まれましたね。日本は火のつきが悪かったというか。
小林 
もっと保守的な方にグッと寄ったよね。
岩井 
今の若い監督たちは、結局は古典的な撮影法から変わっていませんから。

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役者・赤西仁

小林 
でも今回、赤西みたいな男を引っ張ってくると、「こういう撮りかたがいい」って、めちゃくちゃ反応するんですよ。彼は勘がいいし、僕らと似た質のものを持っているんだろうな。要するに正直なんですよね。 おもしろい事に対して従順な男なので、自分の武器や強味というか、安全地帯を自分で抱え込まないでね、逆に無防備でいてくれるのが良かったのかも。
岩井 
今、男の役者がおもしろいかもしれないですね。 ひと昔前の俳優さんたちって、もっとおとなしくて、自分の役割だけやっている感じだったと思うんです。 最近はスタッフや監督のほうがおとなしくなってきちゃって。ポスターに、何とか監督作品って出せる人がいなくなってきてますし。ちっちゃいとこにいるじゃないですか。 でも小栗旬や市原隼人、上野樹里くらいの世代の俳優たちと話してると、「なにか作りたい」「やりたい」という、かつてはミュージシャンだけが特権的に持っていたようなパワーを俳優が持ち出しているなあって思います。 昔、ミュージックビデオを撮っていて、ドラマも撮り始めて、初めてプロの俳優たちと触れた時に一番驚いたのはそこなんですよ。ミュージシャンは自分のプロモーションビデオを撮っているから、「こうしたい、ああしたい」とかって話をするじゃないですか。 でも、俳優さんたちはみんな静かに台本を持っている。話すのも「じゃ1回テストお願いします」くらいで、演技だけやって、あとは控室で待っていて、終われば帰っていくみたいな感じだった。もちろん、全員が全員ではないですけれど。 逆にそうじゃない人は「わがまま俳優」と言われたり、嫌がられていたのかもしれない。今、そこは自由になってきていますね。だとすると次世代の監督って、ひょっとすると役者の中から出てくるのかもしれない。
小林 
役者で映画を撮りたいって人、けっこういるよね。
岩井 
映画監督もそういうエネルギーを持った人が自然にやるんだろうし、なるべくしてなるのかもしれないですね。「これをやれば監督になれる」という、王道はないのかもしれない。
小林 
僕も思わぬことから監督をやってみて、映画の魅力がわかったよ(笑)。 いずれにしても僕は音楽人としてのアプローチがあるからね。その強みは使ったほうがいいだろうなとは思うんだ。


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(撮影/大城亘 構成/編集部)
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岩井俊二プロフィール

1963年生まれ。宮城県出身。映画監督、脚本家、プロデューサー。横浜国立大学卒業後、1988年よりプロモーションビデオとCATVの番組制作をスタートし、その独特な映像世界が注目を浴びる。 1993年、テレビドラマ『ifもしも~打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』で日本映画監督協会新人賞受賞。『Love Letter』(1995年)で数々の映画賞に輝く。そのほか『スワロウテイル『四月物語』『リリイ・シュシュのすべて』など話題作多数。最新作としては、NYを舞台にしたラブ・アンサンブル映画『NEW YORK, I LOVE YOU』(主演:オーランドブルーム/クリスティーナリッチ)がある。(2010年2月公開)

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