小林武史によるダイアリー。日々の出来事や、現在進行中のプロジェクトについて、今考えていることなどを綴ります。

POC農家

2010.11.30 00:32

プレオーガニックコットン(POC)農家へ訪問した時の話をします。
僕らが向かったのは、ムンバイから飛行機で1時間ほど北上した
インドールという町から、車で3~4時間走ったところにある村々でした。

最初に訪れたのは、
POCのプロジェクトに入って1年目の農家。
僕はそこで初めて綿花畑というものを見ました。
一応知らない人のために言っておきますと、
土から生えている高さ70~80センチぐらいの植物の上に
白い"コットンボール"と呼ばれるものが、
畑一面に広がっているのです。
そのコットンボールは、触ると完全に僕らの知っている「わた」なんですよ。
収穫の時期ですから、僕らも何個か手でコットンボールをもぎ取って
中を割ってみると、そこには種が6~7粒詰まっていました。
ちなみにその種は綿実油という油になります。
どういう経路で綿が生まれてきたのか、よく知らないんだけれど、
自然の力の不思議さを改めて感心してしまいました。

何軒もの農家をまわらせていただき、
インタビューもさせてもらいましたけれど、
どこの農家の方々も本当にPOCを導入して良かったと
口々におっしゃっていました。
その理由の最初に出てくるのは、当たり前だけれど
農薬を使わなくなったということでした。
農薬というのはインドでも相当高いもので、
いろんな形でそれを売っている組織というのも複雑に絡んでいるようで、
無農薬栽培に転向したと言うと、
それなりの圧力みたいなものもあるようなのです。

僕が訪問したある村では、
最初POCに参加してくれた軒数は、
70件ある農家のうち半分以下だったのですが、
クチコミでどんどん広がって、いまでは過半数を超え、
近隣の村まで広がってきているそうです。
村の方は、おそらく他にまだ残っている農家も
どんどん変わってくるのではないだろうかと言っていました。

来年からPOCに転向するという農家の人にも会ってきました。
その人は健康上の問題も抱えていて、
周りにいるPOCへ転向した人の姿を見て、これがいいと思い、
転向しようと決めたようです。


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この光景とは、

2010.11.29 12:02

前回の続きですが、この光景とは、
信号などのルールを一切持たない中にある
道路状況、交通状況のことなんですが、
何を思ったかというと、
スキューバーダイビングの時に見る魚の動きでした。

想像つくと思いますが、魚たちの群れは
何秒ごとにどこかが遮断されるとか、
一方通行になることはないにも関わらず、
僕は一度も魚たちの激突を見たことがありません。
見た人がいたら教えて欲しいぐらいです。

つまりインド、ベトナムあたりでも似たような感じですけど、
交差点など合流ポイントでは、
あまりにもすれすれ且つ
概ね事故も起こさず、
みんなが融合していく様を見て、
僕ら日本人は、妙に感心してしまう傾向になると思います。
その秩序なき秩序の深さみたいなものに。
少なくとも僕はそう思いました。

繰り返しになるかもしれないけれど、
とにかくそのノイジーでカオスそのもののような
交通状況の中で、人々や動物が
そんなにストレスフルに見えないのも不思議なんですよね。
インド語だから解らないこともあるけれど、
傍若無人な交通マナーの連続でも、
あまり口汚く罵るみたいな光景は、
ほぼ一回も目にしなかったです。
もちろん、僕らのワーストドライバーも。


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インド紀行

2010.11.27 14:04

ちょっと日が経ってしまいましたが、インド紀行に戻ります。
今回の旅の大半を車の中で過ごしまして、
僕らのチームは5台ぐらいの車で、つるんで走っていたのですが、
5台のうち、どこのチームにも当たり前ですが運転手がいて、
みんな現地の人だと思うけれど、僕が乗った車の運転手は
間違いなく僕の人生の中のワーストドライバーでした。
だけど他の車に乗り合わせた人から話を聞くと、
大体どのドライバーも、なんら変わりないということで、
ある意味レベルが非常に高い。

というのも、車を運転している時間の3分の1ぐらい
クラクションを鳴らし続けているのです。
とにかく目の前に、牛でもヤギでも人でも車でも、
進行になんらかの形で阻害しかねないものに対して
クラクションが浴びせられます。
対抗してくる車にはもちろんです。
追い越しにルールもなく、一昔の日本ならば
怒鳴り合いや掴み合いになりそうなくらいの、
傍若無人な運転作法が延々と続きます。
僕が一番ありえない光景というか行為と思ったのは、
向かってくるバイクや車、自転車など、
大きく道をあけようとしないものに対して
一瞬ハンドルを切ったこと。
「うりゃっ!」とばかりに、、解ります?
完全な威嚇行為と思い、僕は後部座席から
何度もそのドライバーの頭を叩きたいという欲求にかられました。

しかし、そんな人の悪い行為もずーっと続くと、
風景の一部と化してくるのです。
牛やヤギや犬も、そのけたたましい行為の連続の中で
わりとリラックスして、優雅に振舞っているようにも見えてきます。
初日〜二日目などは「うわ!もうぶつかる!」と、
今度こそ事故ったと思ってしまうほど、キモを冷やす連続でしたが
(まぁ、実際に事故ることもあるらしく、時に凄惨な現場を
目にすることもあるらしいです)、実はある瞬間に、
「この光景は何かに似ているな」と思ったわけです。

続きはまた明日。



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小林武史

音楽プロデューサー、キーボーディスト。Mr.Childrenをはじめ、日本を代表する数多くのアーティストのレコーディング、プロデュースを手がける。映画『スワロウテイル』(1996年)、『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)、など、手がけた映画音楽も多数。2010年の映画『BANDAGE(バンデイジ)』では、音楽のみならず、監督も務めた。03年、Mr.Chilrenの櫻井和寿、音楽家・坂本龍一と自己資金を拠出の上、一般社団法人「ap bank」を立ち上げ、自然エネルギー推進のほか、「ap bank fes」の開催、東日本大震災の復興支援など、さまざな活動を行っている。