小林武史によるダイアリー。日々の出来事や、現在進行中のプロジェクトについて、今考えていることなどを綴ります。

大きな影響力

2011.02.02 20:03

僕が前に諫早湾の干拓事業について、
公共事業として始めたことに誤りであったと国が認め、
損害はあるものの誤りを正していくという姿勢は評価するべきだと
このブログで書きましたが、現実はすごい騒動を起こしているようでした。

この間NHKでやっていた諫早湾の特集
ご覧になった方もいらっしゃると思いますが、
悲しいことに、昔からいる漁業の方と、入植した農家の方々が、
結果的に諍いをすることになっていました。

テレビの内容を踏まえて、
この干拓事業について大まかに復習すると、
高度経済成長期に防災と農地造成を目標に掲げて、
国営諫早湾干拓事業を行うことが決まり、
諫早湾の堤防水門を閉鎖したのです。
それによって干潟が消滅し、環境や生態系にも悪影響が及んだため、
漁業被害に苦しむこととなった漁師たちが中心となって、
水門の開門を訴えてきた結果、
昨年末に国が責任を認め、総工費2500億円をかけて行った、
巨大公共事業の見直しをすることとなったのです。
国の歴史的な見直しが決まった一方で、
一刻も早く水門を開門して、昔の海に戻そうと訴える漁師と
いまさら干拓事業を止めて、水門を開けられては
農業ができないという声が入植された農家の方々から起こっている、
ということなんです。

これは本当に難しい話ですよね。
番組内では、当時の農水省が調査した資料が非常に曖昧で、
「干潟を塞いでしまっても、諫早湾自体にさほど影響がみられない」
というように、環境調査結果の事実を伏せるような形で
公に発表していたとも伝えていました。

いろいろ個人的な思いもありますが、
僕は、この諫早湾の公共事業はやるべきではなかったと思いました。
しかし、干拓事業をやることによって、
大規模農業ができると信じて入植された農家の方々から言わすと
「国を信じてやってきたのに、いまさらなんなんだ」という気持ちは、
本当に限りなく怒りに近いものだと思います。

国の借金がとんでもない金額に膨れ上がっている現在ではあるけれど、
もしこのまま水門を開けるということに決めるのであれば、
農民の方への十分な補償、手当を
国として考えていかなければならないと思います。

とにかく国が現実から逃げないことなんだろうけど、
しかし、この法案を通した時の政府は自民党、
今回水門を開けると決めたのは民主党であって、
このへんの経緯や事情もいろいろあるのでしょうね。

いまの政権も民主党の立場というだけではなくて、
当時の自民党が決めたことの弊害も、ネゴシエイトできるような
総合的な交渉力があればいいのにと思いますが、
なんだが大きな影響力がこの国には存在しないのかもしれません。

もちろん大きな影響力は怖い部分もあるけれど、
そういった存在をどこかで僕たちが否定してきたような気もします。
いま一度、国民として考えなければならないのでは、と思います。
サンデル教授の「JUSTICE」も、
同じようなことを言っているような気がします。




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小林武史

音楽プロデューサー、キーボーディスト。Mr.Childrenをはじめ、日本を代表する数多くのアーティストのレコーディング、プロデュースを手がける。映画『スワロウテイル』(1996年)、『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)、など、手がけた映画音楽も多数。2010年の映画『BANDAGE(バンデイジ)』では、音楽のみならず、監督も務めた。03年、Mr.Chilrenの櫻井和寿、音楽家・坂本龍一と自己資金を拠出の上、一般社団法人「ap bank」を立ち上げ、自然エネルギー推進のほか、「ap bank fes」の開催、東日本大震災の復興支援など、さまざな活動を行っている。