小林武史によるダイアリー。日々の出来事や、現在進行中のプロジェクトについて、今考えていることなどを綴ります。

2日目のリハーサル

2011.09.27 23:50

少し前に大道具のスタッフ達が、トビ職人が着るような
ダボッとした和風のヘンリーネックシャツというか、
テキ屋の方が着ているような愛好シャツというか、
ともかく背中に筆で達筆が印刷されているような黒いシャツを
メンバーと僕にプレゼントしてくれました。

2日目のリハーサルの時、はっと気がつくと、
ステージの上で彼らがみんなそれを着ていて、
つまり田原もということですが、
それならということで僕も持ってきてもらって、
全員でそのシャツを着て、最後のリハーサルをやったのです。

リハーサルというのは、
いつも最後にそのセットリストのオープニングをやるのですが、
もう最終公演が終わったから言っちゃうけど、
「オープニング〜かぞえうたの一部〜Prelude」というのを、
このツアーのリハーサルの最後に毎回やっていたのです。

だから、「Prelude」が今ツアーのリハーサルの
最後の曲だったということです。
誰に言われるわけでもなく、黒い服を着て、
リハーサルをやっているメンバーを見ながら、僕も弾いていたんだけれど、
なんとなく彼らのスタッフに対する無言の感謝が伝わってきて、
少なくとも僕にはそう感じられて、ぐっとくるものがありました。
前にもそういうことがあったのかどうかは憶えていないけれど、
ミスチルらしい光景でした。

ちなみに僕の黒いシャツの印象は、
サングラスと相まって、似合っていると大いに評判でした。


宮城公演終了

2011.09.26 23:52

宮城でのミスチル2日間のライブを終えて、帰京しました。
この夏の野外ツアーの最後だったのですが、
今年のミスチルの公的なライブの、多分最後となる2日間でした。

宮城の開催場所は、
「国営みちのく杜の湖畔公園 風の草原」という所でした。
交通網の利便性には少し問題があったかもしれませんが、
スタジアムとはまた違った自然の美しさが残っているところで、
すごくきれいでした。これで大雨でも降ったら、
地面がぬかるんだりして大変だったんだろうけど、
2日間とも天気に恵まれて、最高の環境でライブができました。
そして、桜井をはじめ、ステージに上った全員が、
いや、全スタッフも含めてそうだったと思うけれど、
今年の特に3.11以降にずっと願っていた場所として、
ここでファンの人達と出会えたこと自体が、とにかく喜びに満ちていました。
そんな表現しか思い浮かびませんが、本当にやれてよかったです。

SENSEのアリーナツアー、宮城、盛岡公演のチケットを持っていたけれど、
中止のために来られなかった人に対しては、
今回の宮城公演を優先的に購入いただけるよう、
対応させてもらうことができました。
その結果、(アリーナツアーの宮城、盛岡公演に)来るはずだった
約7割もの人達が、この2日間に渡って参加してくれました。

今年ミスチルにとって、最後のライブと言ったけれども、
振り返るまでもなく、今年は一生忘れ得ない、
おそらく日本人の誰にとっても、そんな年になるのでしょう。
ミスチルのことだけを言っても、
2月19日の名古屋から始まったアリーナツアーが、
3.11以降、3月いっぱいの公演が延期、もしくは中止となり、
その時は、この先どうなるのか本当に見えていなかったです。
だけど、「かぞえうた」のように、
一歩ずつまた歩き出して行くことを信じて、計画を立て、練り直し、
ap bank fesを経て、スタジアムツアーを経て、
やっと東北での公演にたどり着いた、という感じです。
同時に、こんなに早くできたという気持ちもあります。
桜井も言っていたけれども、
人間の復旧復興していく力というのは、基本的に力強いと思います。
いろいろ問題もあると思うけれども、
それはいろんな思いがせめぎ合っているからで、
僕自身、ちゃんと復興していく力というのを、
改めて信じていこうと思わせてくれたライブでもありました。

明日も、もう少し宮城公演のことについて、触れてみようと思います。



大阪公演終了

2011.09.20 23:39

ミスチルの大阪公演2日間が終わりました。

実は両日ともライブ収録があったのですが、
特に昨日の2日目はカメラの台数も多い日で、
つまり、そこにかけていた部分が大きかったのです。

そして、来てくれた人はもちろんわかっていると思うけれど、
全部で2時間45分ぐらいあるライブの約2時間は、
雨が降り続いていたという一日でした。
実際台風の進路と時間単位の予報は当日も気にしていて
あと2時間、台風の影響が遅れないかなと祈ったんだけど
とりあえずは捕まったなと思ったわけです。
雨が降り出したのは6曲目ぐらいだったから、
つまりそれはステージの上で、ということです。

桜井がMCで、
「雨が降り出したら、それはそれで楽しんでしまおう」
的なことを言っていたので、その直後に降り出した雨も、
最初は様子を見ているという感じだったし、
「雨に濡れる大阪の夜だ、、、」だったっけ?
そういう歌詞に変えたバラードも、
みんなで楽しみながらしばらく進んで行ったんだけど、
雨はそこからずっと降り続いたわけです。

とにかく、そこから2時間降り続いたんですよ。
かなりの大雨が淡々と。
こんなに雨が降り続いたのは、
ツアー「空(ku:)」の広島公演以来だと思います。
いまから16年前のことですよ。

でも、バンドのパフォーマンスや演奏は最初からすごくよくて、
雨が降り出してもそれは変わらず進行していきました。
でも、センターに突き出している花道(?)に、
いつも通り何度も出て歌っている桜井は、
ハンパでなくずぶ濡れになるし、
お客さんがずぶ濡れになりながら見ていてくれるのに
彼がそこに行くことを躊躇するはずもなく、
僕は正直後ろから見ていて
滑って事故になることとか、電気的なトラブルとか、
雨足がもっとひどくなることとかをどっかで想像していて、
ずっと張りつめた気持ちがどこかにあったと思います。

途中、宇宙とか地球的スケール感で演奏する曲なんかも
お客さんの冷えた体のことを思うと、
「この曲をやっている場合なのか」という葛藤もあったりしつつ、
またそういう曲は僕がピアノをリリカルに弾いたりする曲でね、
テンポを大幅に上げて弾くわけにもいかず、、、いやぁいろいろ考えました。
実際マイクが少しトラブル出したり、
そのマイクを交換する必死の姿のスタッフが目の前を行き来したり、
ベースの中川が、なんとか保つだろうと思って、
大雨の中に突入していくと、曲の最後の辺りでは、
ものの見事に息切れした機械的トラブルでフェードアウトしそうになったり、
まさに全員で目一杯やっていたと思います。

アンコールは、特にすごかったし、素晴らしかったです。
最後に雨が上がるんだけど、
その辺のことはここで詳しく言うのはやめておきます。

本番前に雨は確実に降るみたいだね、と桜井と話していて、
でも「SENSE〜in the field〜」としては、
ほどほどであれば最高の収録になるかもしれない
という思いもありました。SENSEの最後に相応しいな、と
(宮城公演もあるので、この日が収録作品になればという意味です)。
実際はほどほどをかなり越えてはいたのですが、
いろんな側面があるので、
もう少し仕上がりをみなくちゃいけない部分はあると思うけど、
主要スタッフが最高のライブだったし、
最高のライブ収録ができたと思います
という話を言ってくれて、正直ほっとしました。
音もすごくよく録れたという話も聞いたし、
なにより素晴らしい映像が撮れていることも。

すごい膨らみ方や違った楽しみ方ができたライブだったけれど、
こんな条件でもバランスを崩さず
やり切れたバンドの底力というのをすごく感じました。
そして、それを一緒に盛り上げてくれたお客さんに、
僕からも本当に感謝します。
残り宮城の2公演ですが、いろんな意味で
ファイナルの東北公演の前にこの大阪でのライブができて
よかったように思います。

ちなみに、週間天気予報によると、
9/24〜25の天気は、なんとか保ちそうな様子ですが、、、。





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小林武史

音楽プロデューサー、キーボーディスト。Mr.Childrenをはじめ、日本を代表する数多くのアーティストのレコーディング、プロデュースを手がける。映画『スワロウテイル』(1996年)、『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)、など、手がけた映画音楽も多数。2010年の映画『BANDAGE(バンデイジ)』では、音楽のみならず、監督も務めた。03年、Mr.Chilrenの櫻井和寿、音楽家・坂本龍一と自己資金を拠出の上、一般社団法人「ap bank」を立ち上げ、自然エネルギー推進のほか、「ap bank fes」の開催、東日本大震災の復興支援など、さまざな活動を行っている。