小林武史によるダイアリー。日々の出来事や、現在進行中のプロジェクトについて、今考えていることなどを綴ります。

共通点

2011.03.05 02:31

僕は千代の富士とMr.Childrenを例えることがあるのですが、
この2名(組)の共通点というのは、
Mr.Childrenはデビュー当時、
特に鳴り物入りではなくて、
僕の所に届いた資料を見ても、
どこかしら暗い感じなんだけれども、
飛び抜けて純粋というわけでもなくて。
でもポップだったり、当時のバンドブームの片鱗があったり。
ただ、曲については、簡単に言うと、、長かったのです。

大きな相撲を取ることと
大きな構造の曲をやるということが
似ているとまでは言いませんが、
当時のMr.Childrenの曲は、
とても構造が大きかったので、
何気なく聞いていたら、
普通に聴いている人からすると飽きてしまうのです。
桜井君もその昔は、
まだそんなに肺活量がある方ではなくて、
でも、ものすごく深く深呼吸をして、
長い息でなにかをやろうとしているというか、
野球で言うところの、
決してコンパクトに振り回すバッドではなくて、
おもいっきり振っていることに気がついて、
なんというか、「風を感じているんだな、彼らは」
みたいなことを思って、
まずはそこから手を加えていったのです。

格好良くもなりきれてないし、
キャッチーにもなりきれていないし、
暗さが魅力だよねと、ものすごく暗いわけでもないし、
いろんなことが半端な感じになっていて、
なにで勝負に出られるのかよく解らなくて。
桜井君も当時、体つきは今みたいな感じではなかったし、
太くない声ではあったけれども、
ただ、しばらく彼らと一緒にやっていると、
大きな相撲を取ろうとしていた
千代の富士のことを思い返すようになったのです。

コンプレックスということではないんだけれども、
自分の声が高い方には伸びていくけれど、下の声は出ない、
地声は太い声が出なかったから、
桜井君はそれをカバーしようと鋼の筋肉をつけようとする。
楽曲作りに関しても、僕に「詞の作りが甘い」などと言われ、
僕と一緒にレコーディングをやりながら、
学習していくことになるんだけれども、、
多分、あれだけ学習能力のあるミュージシャンは、
今後現れないと思うし、本当に成長していったのです。

それで、昨日話した千代の富士と同じように、ある時が来るのです。
2枚目のアルバムまでは、まだミリオンまでいく
アーティストになるとは思っていなかったのですが、
3枚目をレコーディングしている時に
「桜井、おまえら本当にすごいことになるかもよ!?」と言ったら
「一応僕らそのつもりですけど、、」って言って(笑)
そこから『CROSS ROAD』が初ミリオンいって、
その次が『innocent world』で、トントントンと日本のトップバンド。
ミスチル現象と言われたりしてね。
でもたった2年ぐらいしかないんですよ、その期間って。


相撲

2011.03.03 23:36

相撲が好きだという話をしましたが、
生涯本当に会いたくて仕方がない人のベスト3に
僕にとってのヒーロー、
千代の富士と野茂英雄さんとモハメドアリがいまして。
まぁその前に王貞治さんがいたり、
野茂君は既に友達であったりもするのですが。

彼らには割と共通しているところがあって、
ものすごい自分の強烈な切り札を持ってはいるんだけれども、
一般的には「そんなんじゃ駄目じゃん!」と見られてしまい、
もはや悪役化していて、周囲からワーワー言われるんだけれども、
そんな最中でも自分のやり方を貫いた、しかも強烈に、、、
という男たちなのです。

千代の富士は、誰しもが認める昭和の大横綱です。
僕がこれまで見てきた力士の中で、あれだけの大横綱は、
みんな大体20代前半に横綱になっていて(若貴もそうだったし)、
ところが千代の富士は、24才ぐらいで
まだ幕内をうろうろしていたはずなのです。
上がったり下がったり、
勝ち越し〜負け越しを繰り返していた頃に、
体も小さかった彼を、「いずれこの人は横綱になる」
と言っていた人は誰もいなくて。
そんな千代の富士が、ある場所を境に「ドン!」と勝ち続けて、
1年後にはあっという間に横綱になったのです。

僕は彼のキレが素晴らしいところが好きでした。
千代の富士は体が小さいのに力が強いので、
相手を投げるという大きな相撲を取っていて、
小さいが故につぶされて、倒れて、
脱臼癖のある肩を頻繁に脱臼して、、の繰り返しだったので、
それを克服しようと、ウェイトトレーニングを始めたのです。

いわゆるバーベル持って重量挙げをやったり。
いまでこそ力士はみんなやっている事だけれども、
当時はあまりいなかったのです。
千代の富士は脱臼肩をさらに筋肉で覆って、
すごく強い鋼のような筋肉をつけていったのです。
元々瞬発力ある、スピード感ある人間に、
一気に決めていく腕力、パワーが備わったので、
僕は、ある場所から千代の富士の1秒間の分析力は、
他の力士の倍ぐらいに見えて。
相手の力士がスローモーションで
動いているような感じに見えるのです。
力がぐーっとついたところから投げようとするので、
まわしを持って引きつけると、相手がいっぺんに浮くのです。
そしてそのまま寄っていくという相撲、
つまり投げるというとリスキーだけど、
きちんと寄り切って投げるという、
堅実な相撲の型ができていったのです。

スピード感と力強さの合わさった、史上初の力士だと思います。

一度千代の富士(既に引退されていたので九重親方ですが)を、
空港でお見かけたしたことがありまして。
よっぽど握手してもらおうかとすごく考えたけれど、
近くまで行って、佇むだけで終わってしまいました。
一度でいいからお会いしてみたい方です。





春場所

2011.03.02 23:51

「ap bank radio」で話したことを、
ここでも少し話そうと思います。

ニュースが出てから少し時間が経ってしまいましたが、
大相撲本場所が65年振りに春場所中止となりましたね。
1946年以来だから、終戦の1年後には相撲をやっていた
という事実にも驚きだったりするのですが。

例えばプロ野球が揉めたりすることはあるけれども、
国技である相撲が中止になるというのは、
あってはならないことだと思うのです。
しかもその理由というのが、八百長。
こうなってくると、話は更になかなかややこしい。

確かに、その昔
「〜対決は筋書きができている」
という噂があったりして、
「どこかではなんとなく(八百長は)あるのだろう」
と、思っていたりしましたが、
僕は相撲が本当に好きなので、
小さい頃から見てきた者から言わせてもらうと、
盛り上がってくると、こういった話が出てきますよね。

相撲って「人情相撲」とか言われたりして、
そこまで筋書きが決まっているものではないと思うのですが、
だけど、あらゆる力士が千秋楽間近に直面するのが、
勝ち越すか負け越すか。相撲の面白いからくりで、
とにかく8勝7敗だったら勝ち越して上にいき、
番付次第では他の力士が下りたりすると、
それこそ5段階ぐらい上にいくし、
逆に負け越したら、たった1敗で負け越しただけでも、
ひどい時には5段階ぐらい下がってしまうこともあって
勝つか負けるかで10ぐらい違う時だって生まれてくるのです。

千秋楽を8勝6敗と7勝7敗で迎えた力士の取組だと、
ここはやっぱり貸し借りではないけれども、
前に一度勝ち越している力士だったら、
「ここで負けておいてあげれば、次の時にお願いできるかも」
なんていうことが存在するのかも、と思ってしまうものです。

両方とも仲良く8勝7敗で場所を終えるのと、
片方9勝6敗とでは全然違うわけで、
ここになんらかの貸し借りの中でお金が存在しているとすると、
ただの「ひとつ、貸しね」ということでは収まらなくなるのです。
それがいちいち千秋楽ではなくとも、
今場所はどうしてもうちの部屋を上げなくてはいけない、みたいな
親方同士、部屋同士の駆け引きが生じたりして、
「国技」というものに対して、
何で背骨を立てているのか、伸ばしているのか。
ファンとして見ていても、どこにすがるべきなのかが、
なくなってきているという感じがします。

本来、礼節だったり美意識や、
「日本人として・・」だったりがあったもので、
良い悪いは別にして、
これだけ外国人力士がハングリー精神を持って
相撲の世界へと入って来ている昨今、
格闘技としての相撲が浮き彫りになってきていて、
酸いも甘いも飲み込んだ、、清濁併せ呑む礼節みたいな、、
例えば、戦いだけれどもちょっと手加減するとか、
スポンサー含めたお金の流れが多少あったとしても、
大きなところは崩れなかった、
というようなことがあったと思うのです。

メールという日常の中で八百長が浮き彫りになってくると、
黒い世界というか、賭け事に利用されたりだとか、
もっと貸し借りみたいなものが浮き彫りになりやすい
でもそれは、悪い虫みたいな、病気みたいなものだから、
治せばちゃんと背骨はあったという時代が
昔はあったような気がするけれども、
今は筋が立つにはどこになるのか、、見えづらいですね。

スーパースターが出てきたら、
相撲人気も変わるのかもしれないけれども、
満員御礼なんてとんでもない、というような
閑古鳥が泣くところまで行く気がしますね。



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小林武史

音楽プロデューサー、キーボーディスト。Mr.Childrenをはじめ、日本を代表する数多くのアーティストのレコーディング、プロデュースを手がける。映画『スワロウテイル』(1996年)、『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)、など、手がけた映画音楽も多数。2010年の映画『BANDAGE(バンデイジ)』では、音楽のみならず、監督も務めた。03年、Mr.Chilrenの櫻井和寿、音楽家・坂本龍一と自己資金を拠出の上、一般社団法人「ap bank」を立ち上げ、自然エネルギー推進のほか、「ap bank fes」の開催、東日本大震災の復興支援など、さまざな活動を行っている。