小林武史によるダイアリー。日々の出来事や、現在進行中のプロジェクトについて、今考えていることなどを綴ります。

札幌国際短編映画祭

2012.09.19 02:19

1週間程前の週末は福島に行っていましたが、
この3連休は北海道にいました。
前々から決まっていたのですが、
「札幌国際短編映画祭」という映画祭が開かれまして、
その中心となる2日間に出席しておりました。

1日目は、グランプリやベストディレクター賞など、
受賞作品や受賞者を選ぶ審査会の日で、これが大変でした。
韓国、アメリカ、イギリスから1名ずつと、
日本からは僕、そして札幌市在中の方が1名、計5人で審査します。
バックグラウンドも生き方もそれぞれな人達が、
本当にたくさんの国から集まった短編映画を批評し合うわけですから、
なかなか一筋縄にはいかない。
最初は「じゃあグランプリから決めましょうか」と
実行委員の方が提案したのですが、案の定難航し、
しょっぱなでめちゃくちゃ時間が掛ってしまったのです。
それで、さすがに
「全体的にぐだぐだと話し合うよりも、ちゃんと決めていきましょう」
というムードになり、
「5人いるので、3票入ったら決まりだから」
を合言葉に、その後、割とさくさくと受賞を決めていくことができました。
決して手抜きしていた訳ではないんですけどね。
「この調子なら審査会が終わった後、
北海道のうに、いくらなどをつまみに一杯行けるかな」などと
妄想が膨らみ出した時に問題が起こりました。
ベストドキュメンタリー賞を選定する時の事でした。

『マーダー・マウス』という食に関しての作品でした。
この作品は監督である若い女性が、自ら出演し、
自分を実験台として追い込んで行くというドキュメンタリーです。
何に追い込んで行くかというと、生命を絶たなければ、
あらゆるものを食べることができないという事実に対して、
自分で対象になるものの生命を絶てるか、
絶った上でそれを食べるのですが、
それでどういう感覚を経験できるかというようなことです。
まぁ植物に対しても触れてはいるのですが、
動物に関してはそれは相当厳しいもので、
見ている我々にも厳しい現実が突きつけられます。

最初彼女は祖母の作るチキンスープを思い出して、
祖母のところに行きます。
祖母は飼っている鶏を、いつも鉈で首を落として
生命を経っていたわけですが、
それをやってみることを監督である彼女に勧めます。
それをなんとか彼女がやるところまでは、
まだ普通に見ていられるのですが、
知り合いの羊農場に行って銃で羊の生命を絶つあたりになると、
彼女の動揺も含めて、見ているのが相当苦しくなります。
ただ、彼女の真剣な気持ち、
つまり、事実は自動的に食べ物というものが、
どこからか降ってくるという訳では決してなく、
自動的にスーパーマーケットの肉コーナーも、
手品でステーキ用の肉とか鶏の手羽とかが存在している訳でもない、
これは全て生き物の生命を絶っているのだという事実に、
自分が自ら生命を絶ってみるということで向き合おうという、
真摯な気持ちが伝わってくる映画ではあるのです。

その気持ちを評価したのが、
僕と、アメリカ、サンフランシスコから来た作家のローラでした。
これに真っ向から反対したのが、韓国から来たクァク監督です。
ちなみに『猟奇的な彼女』などが代表作です。
彼の作品を僕はあまり見ていなかったのですが、
それまで受賞作を選んでいるときは、
僕と彼は大胆でオルタナティブな作品を共に好むという傾向があり、
日韓で共闘戦線を結んでいました。
実際の彼の映画を見た人の印象は、保守的な監督らしいけどね。

しかし、いわゆる保守好きというような態度ではなく、
クァク監督は、この『マーダー・マウス』という映画に
賞を与えるべきではないということと、その理由は、
映画が、それを作るために生命を絶って良いということは決してない、
ということを主張し続けたのです。


続きは次回に。




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小林武史

音楽プロデューサー、キーボーディスト。Mr.Childrenをはじめ、日本を代表する数多くのアーティストのレコーディング、プロデュースを手がける。映画『スワロウテイル』(1996年)、『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)、など、手がけた映画音楽も多数。2010年の映画『BANDAGE(バンデイジ)』では、音楽のみならず、監督も務めた。03年、Mr.Chilrenの櫻井和寿、音楽家・坂本龍一と自己資金を拠出の上、一般社団法人「ap bank」を立ち上げ、自然エネルギー推進のほか、「ap bank fes」の開催、東日本大震災の復興支援など、さまざな活動を行っている。