貴重な経験
2012.09.22 12:35
クァン監督は、この先もこういった問題は起こりえる、
その懸念があると主張し続けました。
例えば、動物の毛皮のための狩猟に関して、
その問題を暴くために映画を作ることを思い立ち、
そのために動物を殺すことが、
この映画をきっかけに起こり得ると続けました。
僕はそれはあり得ると思いましたが、
少なくとも『マーダー・マウス』には、前述した通り
悪意のようなものは一切感じられません。
生命をいただくことで生きている生き物として、
多分、これから人類が何度もたどらなければいけない
大きな疑問や問題に、ほぼまっすぐに直面しようとする映画です。
アメリカ人のニック、イギリス人のローラと僕は、
基本的にこの映画を認めています。
5人中3人なのだから、それで決定でいいのではないかと、
ここまで決めてきているルールに従い、
そう思ってしまいそうになった時、
明言まではしなかったけれど、クァン監督は
「この作品に受賞ということになれば、
この映画祭の審査員から離脱せざるを得ない」
というようなニュアンスの発言が出ました。
全くもってやれやれですが、同時に最近の領土問題にも通ずる
国家間の主張や文化の違いにおける「決定的な対立」というものが
存在することを目の当たりにしているのかなとも思った訳です。
結局、受賞作にはしない、
つまり、「ベスト・ドキュメンタリー賞」は該当作なしということにするが、
「審査員の中でこういう話し合いが行われた、
とてもよい作品だという話も出た」ということを
表明することで、決着がついたわけです。
それ以降は、全て賞を決定したし、
むしろこの激論があったことが、全員にとって貴重な体験であり、
よい映画祭になったと、みんな口々で言い合うような
コミュニケーションが生まれていました。
正直それはそんなに大事なことではないけれど、
ひとつの作品を好きか嫌いかだけではなく、
この社会や世界にとって必要か否か、賞賛するか否かを、
これだけ考え、議論することができたのは、僕にとって面白いことです。
音楽の世界じゃ、まぁないものね。
ないわけじゃないけれど、僕は拒否してきたかなぁ。